訊いてみよう!
ある晴れた日の午後。異国の少女が一人、このジパングを訪れた。
その少女はあることについてジパングの人々に訊いて回っている。その答えは誰のものであれ似通っていた。
ある人曰く。
「ヤヨイちゃんが生贄に選ばれたとき? それはやっぱり悲しかったなぁ…… 仲良いからさ」
ある人曰く。
「ヤヨイに限らず、儂ら年寄がのうのうと生きておるのに、若い連中が死んでいくのは耐えられんかったわい。……結局、ヒミコ様にばかり負担をかけてしまった儂ら全員の責任なのだろうがのぉ」
ある人曰く。
「ヤヨイちゃんの母親とは友達だから、彼女のことは小さな頃からよく知ってるのよ。だから生贄に決まった時は、うちの娘が選ばれたみたいな気分で、目の前が真っ暗になったわ……」
ある人曰く。
「ヒミコ様がお決めになられたことであったし、ヤヨイも名誉であろうという風に考えていたな。だが、やはり同じ村の仲間であったわけだし、複雑ではあった。その前の生贄達の場合は、他の地方から選ばれていたためか、それほど辛くも感じなかったのだが…… ヤヨイを祭壇まで連れて行った時には――あまり思い出したくはないな」
ある人曰く。
「ヤヨイおねーちゃんがいなくなるってきいて、すっっっごいかなしくなったんだ〜」
この通り、全ての者はヤヨイを慕い、生贄に選ばれたことを悲しんでいたようである。ただ、彼らの答えに共通しているのはそれだけではなかった。
ある人曰く。
「ただねぇ…… ヤマトくんと絡んでるときのヤヨイはホントうざいから、今思うとちょっといい気味だったかなぁ、な〜んて思ったりもするわね」
ある人曰く。
「この間、儂の家の玄関先でヤマトと逢引きしておった時は、鬱陶しかったがの」
ある人曰く。
「……………若いってのはいいわよねぇ」
ある人曰く。
「独り身にあいつらのイチャつきぶりは辛いものがあるゆえ、そういう意味では生贄に選ばれたのは喜ばしかったと、まあ、今だからこそ言えるかもな」
ある人曰く。
「たまにおかーさんとあるいてると、『みちゃいけません』って目をふさがれることがあるの。そのときはよくヤヨイおねーちゃんとヤマトおにーちゃんがいっしょにいるな〜」
このように呆れられたり、ある意味迷惑をかけたり、疑いようもなくヤマト、ヤヨイは――
「見事なバカップルだね〜」
うんうん、と頷きながら感慨深げに呟いた黒髪の少女。その黒髪は頭の左右高いところで縛られている。
「あれ? メルさんじゃないですか?」
「あ、噂をすればってやつだね〜。久し振り、ヤマトくん」
声をかけられたメルは、声をかけてきたヤマトに軽く手を上げて挨拶を返す。
「お久し振りです。それにしても、何か御用ですか?」
ヤマトは笑顔で対応してから、怪訝な表情になり訊く。
「う〜ん、まね。ところでヤヨイちゃんは?」
メルは、さすがに本人の前で調査結果を公表する気はないらしく、質問の答えをうやむやにしてから話をかえた。
ヤマトは多少気にしつつもそれに答える。
「今日は私もヤヨイも仕事がありますから…… ですが、夕方になれば一緒にいられるのです!」
そう叫んでから、ああ待ち遠しい、と呟いて遠くを見詰めるヤマト。
メルは呆れた視線を送り、
「そっか……」
そう呟いてから破顔一笑。
「いや〜できれば二人一緒に会いたかったけど、それじゃ〜仕方ないな〜。わたし、もう帰らないといけないからさ〜」
嬉しそうにそう言って手を振る。
「え、今すぐですか?」
「うん。ちょっと気になったことがあって来ただけだから」
そう答えながら、メルはキメラの翼を取り出す。
「そうですか…… ヤヨイとも会って貰いたかったのですが、それなら仕方ないですね」
「そゆこと。それじゃ〜ね〜」
笑顔で手を振りながら、キメラの翼を使うメル。
「きっとまた来てくださ――」
ヤマトの言葉も途中に空へと飛び立っていった。
「――というわけで、ジパングの人達もヤマトくんとヤヨイちゃんはバカップルだと思ってるね」
ジパングで聞いたことの報告を、ベッドに腰掛けて独りで喋りきったメル。そんな彼女にどこからともなく声がかかった。
『しばらく見ないと思ったら…… 主は何をやっておるのだ』
突如響いたのは呆れたような声。しかしその声の主はどこにも見当たらない。
「別にいいでしょ。気になったんだもん」
少し責めているように聞こえる謎の声に、メルはふてくされたように頬を膨らませ答えた。
しかし――
「あ、そだ。話聞いたおじいちゃんに餅貰ったんだ〜。ケイティにも分けてあげよっと〜」
すぐに機嫌を直し、部屋の出口に向う。
ばたんっ。
メルが扉を抜けて部屋の外に出る。誰もいなくなった部屋では――
『まったく……』
再び呆れたような声が響いた。