思慕と妬みと
――ぐすっ、ぐすっ、お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい!
岩場の隅で少女が泣いていた。おかっぱの髪型をした6歳くらいの女の子だ。
――マナ……
しばらくすると、マナと呼ばれた少女とよく似た男の子がやってきた。背はマナよりも少し大きいくらいで、髪型はやはりおかっぱである。名をセエレという。
――お兄ちゃん……
――もう泣かないで、マナ……
――だって……、ひっく、お母さん、私のこといらないって、必要ないって……、そういって叩くの。ぐすっ、ぐすっ
言って、マナはいっそう激しく泣き出した。セエレは慌ててマナを慰めようとする。
――で、でもさ、お母さんも口で言うほどマナのこと嫌いじゃないと思うよ。僕と二人きりのときにさ、マナのこと聞いてきたりするしさ
――嘘だもん! そんなの嘘! だって……、私聞いちゃったんだから。お母さんとお兄ちゃんが話してるのを。お母さんが愛してるのはお兄ちゃんだけ……だから私は要らないの、死んじゃったほうがいいの
――ダメだよ! 僕はマナが必要だよ、マナのこと大好きだよ。だから死ぬなんて……
それを聞いたマナは眼差しを鋭くしセエレを見た。
――勝手なこと言わないで! 私の気持ちお兄ちゃんにはわからないよ! お母さんに大事にされて、愛されて、いつもお母さんに必要とされて……お兄ちゃんには、わからない……
再びマナが泣き出す。セエレは何を言えばいいのかわからなかった。妹のことが大好きなのに、守ってあげたいのに。
――帰って…… 帰ってよ!
――わかったよ……
言って、セエレは家の方へと歩いていった。
マナは後悔していた。
セエレのことを嫌いなわけじゃない。正直、セエレが自分のことを好きだと思っていてくれてうれしいし、自分もセエレのことはとても好きである。
でも、激情をとめることができなかった。
“自分はお母さんに愛されていないのに、なんでお兄ちゃんだけが”という気持ちがどんどんあふれてきてとめることができない。
慰めてくれたことに対して感謝の言葉を言いたいのに。大好きなことを伝えたいのに。
マナはそんな悲しみの思いを抱きながら家へと向かう。
――マナ……
岩場の影に帰ったはずのセエレがいた。
――お兄ちゃん……、帰ってなかったの
――うん
セエレは照れくさそうに頭を掻きながら言葉を続ける。
――あのね、この前お母さんから“小さな勇者様”の話を聞いたんだ。その勇者様はね、小さいのにとても立派ですごい人なんだ
マナには、セエレが何を言いたいのかさっぱりわからなかった。
――何? 自慢? 自分はお母さんに愛されてるって……
――ち、違うよ。そうじゃなくて……僕がさ、マナの“小さな勇者様”になるよ
――えっ?
――僕には本物の勇者様みたいに力はないけど、マナがつらいときに力になってあげたいって、そう思うから……マナ?
マナは泣いていた。さっきまでとは違う涙。
今なら言える、そう思った。
さっき言えなかった言葉。大好きな人に……
――お兄ちゃん、ありがとう……