注意書き:
本作品は真島ヒロ氏「フェアリーテイル」の二次創作小説です。

I wanna help you.

 悪魔の心臓(グリモアハート)の船から、強大な魔力のぶつかり合いを感じる。妖精の尻尾(フェアリーテイル)と悪魔の長、マスターハデスの最終決戦の幕が切って落とされたのだ。
 ドランバルトは評議員の船の上で歯噛みする。
 ゼレフの発した言葉――『アクノロギア』。その言葉を耳にした今、あの島、フェアリーテイルの聖地『天狼島』へ戻る気など全く起きない。しかし……
 ぐッ!
 彼の手は拳を作る力を緩めない。
 フェアリーテイルに潜入して過ごしたのは数日。決して長い時ではない。にもかかわらず、彼は妖精たちの気高き心と仲間を想う気持ちに魅了された。更には――
(ウェンディ……)
 ドランバルトが『メスト』を名乗り、騙した少女。恩人であるミストガンに恩返しをするのだと張り切り、よく泣き、よく落ち込み、それでも、よく笑い、強き心を持った不思議な少女。
 このままでは彼女は死ぬだろう。
 グリモアハートのマスターハデスが強敵なのは勿論、奇跡的に彼を退けたとしても……
 ガタガタ。
 ドランバルトの体に震えが走った。
 近い未来、天狼島を襲うモノの姿を思い描き、恐怖に震えた。拳をほどきそうになる。
 彼には、何もできないのだ。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
 はっ。
 顔を上げる。ドランバルトはグリモアハートの船を見た。
 魔力の質が、変わった。

「さて。準備運動はこのくらいでよいかな?」
 マスターハデスが言った。
 辺りに満ちる魔力は、これまでの彼のそれとは異なるものであった。彼は全く本気を出していなかったのだ。
 そして今――
「喝!!!!」
 強い、ただ単に強いだけの魔力の波。しかし、その強さゆえに、並の人間が術式を構築して行使した魔法よりも、よっぽど威力のある一撃となった。
 その波は、真っ直ぐとフェアリーテイルの一員、ウェンディ・マーベルを襲う。

 ひゅっ!
 影が空間を駆け抜けた。ウェンディの姿が消えている。
 しかし――
「なんとっ!」
 ハデスが声を上げた。
 ウェンディは彼の魔力を受け、消滅するはずであったのだ。
 が、事実はそうではない。ハデスの驚嘆が、それを物語る。
 彼女は――

 ウェンディは温もりの中に居た。誰かの胸の中、嗅いだことのある匂いを感じていた。
「あ…… あ……」
 そこに居るはずのない匂い。けれど、彼女を抱くその腕は――
「……………間に合った……………」

 数ある三千世界の中で君に出会えたこの奇跡を前に、オレは何を迷う必要があった。
 後悔などしたくない。手遅れになどしてたまるか。
 君は、君たちはオレの手を一度は弾いた。けれどそれは、オレが君たちを理解しようとしていなかったからだ。今だってオレは、君たちが想う100分の1ほどもフェアリーテイルのことを想っていないだろう。オレの手はまた弾かれるかもしれない。
 それでもッ……!
 オレが、ずっとずっと一番伝えたかった言葉を言うよ……

「ウェンディ」
 優しい声音。緊迫した事態にもかかわらず、彼は微笑みを浮かべ、彼女を安心させる。
「君を助けに来た!」
 頬に傷のある、メストと名乗っていた男性。彼の名は――
「ドランバルトさん!」
「下がっているんだ、ウェンディ!」
 そう声をかけ、ドランバルトは行動を開始した。

「ダイレクトライン!」
 ひゅっ!
 瞬時のうちにナツ=ドラグニルの元へ移動し、ドランバルトは彼の腕を取る。
「ダイレクトライン!」
 続けて、火竜と共に空間を移動する。向かう先は――
 ひゅっ!
 マスターハデスの後方。しかし……
「甘いわ! うぬらとアズマの戦いは悪魔の目で見ておった! アズマに敗れた作戦が私に――効くか!」
 どぉん!
 強い魔力の波動が周囲を薙ぎ払う。ドランバルトはその波動の直撃を受け、のけぞった。
 しかし――
「!? 1人だけだと!」
 ハデスの後ろに現れたのはドランバルトのみであった。
 痛みに顔を歪めながら、彼は笑う。
「行け…… サラマンダー……!」
 ドランバルトが最後に見たのは、空中に置いてきた火竜が焔を吹く光景だった。

「……ルトさん! ドランバルトさん!」
 心地よい声音が耳朶を刺激し、ドランバルトは目を覚ました。
 がばっ!
「知りたい! 結末がどうなったのか、オレは猛烈に知りたい!」
「あはは…… それは素だったんですね」
 安堵の息を吐いてから、ドランバルトをゆすり起こした少女――ウェンディは、困った顔を浮かべて呟いた。
 その顔をしばし見つめてから、ドランバルトは辺りを見渡す。
 仰向けに倒れたマスターハデス。集ったフェアリーテイルの面々。中には、重傷を負っていたはずのマスターマカロフの姿もある。包帯姿が痛々しくはあるが、命に別状はないようだ。
 フェアリーテイルが勝利したのだ。
「そうか。あのあとサラマンダーがハデスを倒したのか」
 役に立てたのだ、と満足そうに笑み、ドランバルトは呟いた。
 しかし、あの場に居た数名は揃って首を振る。
「いいや。あの後、ナツの攻撃はハデスに然程効かず、奴は我々を圧倒した。ラクサスの参戦、ナツの雷炎竜化、天狼樹の復活、ハッピーとシャルルによるハデスの力の源である悪魔の心臓の破壊。様々な要素が絡み合って、我々は辛くも勝利を収めることが出来たのだ」
「だな。つーわけで、お前あんま役に立ってねーぞ」
 ぐもっ。
 ナツの言葉を受け、ドランバルトはショックで軽く涙ぐむ。
「ナツ、はっきり言い過ぎ」
「もうちょいオブラートに包めよ。ま、事実だけどよぉ」
 ぐもっ。
 グレイ=フルバスターの言葉が追い打ちをかけた。
 更に、ナツが言葉を連ねる。
「そもそもなぁ。助けはいらねぇっつっただろ。俺らの問題だ。俺らでケリをつけるっつーの」
 ケッと悪態をついて、彼はそっぽを向いた。
 その言葉は予想していたものだった。以前にもかけられている言葉なのだから。それでも、ドランバルトは来たのだ。
「ナツさん! せっかく駆けつけてくれたのに、そんな言い方って!」
「いや。いいんだ、ウェンディ」
 軽くショックではあったが、ドランバルトは然程気にした風もなく、ウェンディの言葉を止める。
 そして、彼の背を支える、優しい少女を真っ直ぐ見つめた。
「君が無事でよかった」
 にこり。
 優しく瞳を細めるドランバルト。
 その表情を目にし、彼とウェンディを除く全員が揃って口を開いた。
『ああ、ロリコンか』

 ドランバルトはフェアリーテイルのベースキャンプで横になり、周りで騒がしくしている面々を瞳に映す。皆、強い生命力に満ち、互いを想っている。
(不思議だな。彼らなら、彼らと共になら、アクノロギアすらどうにか出来てしまいそうな、そんな気がする)
 破滅の時は迫る。されど、希望はまだある。彼は、そう信じた。

 784年12月16日。魔導士ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地である天狼島をアクノロギアが襲撃した。その際に、同ギルドの主要メンバーと私の部下が1名、行方不明となった。彼らの行方は、未だ杳として知れない。