がらっ。
多大な決意を持って扉をスライドさせる。まず俺の目に映ったのは外の景色だ。
この教室の窓は南側に面しているため、正面玄関の前に広がっているグラウンドがよく見える。先ほど入部を断念した女子サッカー部が元気に走り回っていた。更に遠くに瞳を向けると、標高の低い山も見える。壮大さのかけらもないショボさだが、あいつなら眺めながら、あそこの山にも妖怪がいるのかしら、とか言ってそうだな。
「あれ、富安先輩?」
あほなことを考えていたら、教室の隅から声をかけられた。文芸部所属の一年、岬俊耶である。
ちなみに、俺が会うことを是が非でも拒否したい奴ってのはこいつではない。てか、そいつは今いないらしい。教室中を見回してみても、奴の姿はない。
「よお、岬。久しぶりだな。ところで、部長殿はお留守か?」
尋ねると、岬は茶色の髪をかきあげ、首をかしげた。
「おかしいなぁ。二学期初の勧誘に出かけんスけど、会いませんでした?」
……まあ、諦めていないだろうとは思っていたが、実際に再開したと聞くとうんざりするな。
「幸い、会ってない」
「それは運がよかったっスね。いや、わざわざ我が文芸部をお訪ね頂いたということは、観念して入部する気になったということでしょうし、今日に限って言えば運が悪いのかな?」
ニヤニヤ笑いながら言った岬。
冗談じゃねぇよ。
「俺は入んねぇよ。入るのはこいつ」
ひょこ。
俺の陰に隠れていた鵬塚を前に出す。入部しようって奴が隠れててどうすんだ、まったく。
「そちらは……彼女さんですか?」
フルフル。
岬の野郎、何言い出すんだっつーの。思わず鵬塚と一緒に俺もフルフルしちまったぜ。
「ちげぇよ。こいつは俺のクラスに来た転校生で――」
「……つか……い……で……みや……く……しん……で……」
俺が紹介してやろうとしたら、鵬塚が一歩前に出て口上をたれた。そして、名前を口にしたあと、俺の親友だとかいうどうでもいい情報を付加させていた。
まあ、自分でしっかり紹介しようとするその気概は買おう。しかし――
「……あの? すんません。もう一度いいっスか?」
一般人に聞き取れるはずはない。
「こいつは鵬塚真依。これでも俺と同じ二年。いちおー先輩だから敬えよ。あと蛇足だが、俺の親友だ」
最後の一文はこっ恥ずかしいからなるべく口にしたくないのだが、口にしなかったらしなかったで鵬塚がうるさいからな。仕方がない。
てか、親友とか口にするのは明らかに俺のキャラではないため、付き合いの短い岬でさえもぽかんと口を開けて呆けてやがる。
「はあ、親友ですか」
コクコク。
嬉しそうに頷いてから鵬塚は言葉を続ける。
「……た……ぶん……いぶ……いりた……す……」
「私、文芸部に入りたいんです、と言っている」
「……な……どう……てる……で……か……」
「どんな活動をしてるんですか、と尋ねている」
近くの椅子に腰掛けて鵬塚語を訳していると、岬が相変わらず呆けたままでこちらを見た。
「……なんで分かるんですか?」
「慣れだ」