2人

――だからね、下ばっかり見て前も見ないで他人のいる方に突っ込んでくる人って最悪だと思うの!
――そうか……
――ひっどーい! 何その、どうでもいいよ的な態度!
――いや、実際どうでもいいし……
――そう思ってても、そうだよねって同意して話を展開させるのが人情ってものでしょ!
――そうだよね
――そう、それでいいの。でね!
――続けるんだ……
――今日ここに来る前にそういう人がいたんだ。四十代くらいのオバサン。でね、私はそういう風に考えてたから意地でも避けてやるもんかって、相手を軽く睨みつけながら直進してやったの。そしたらそいつ結局最後まで避けなかったから思い切りぶつかっちゃって、不本意とはいえ私は一応形式的に謝ったわけ、ごめんなさいって。そしたら向こう、何て言ったと思う?
――さあ?
――何処見て歩いてるんだ! って…… すっごい殴りたくなったわ
――まあ、そうだろうな……
――それはお前だぁ! って突っ込みのひとつも入れようかとも思ったし
――まぁ、お笑いブームだしな。それで、それがあんたが…… そういや、名前何ていうんだ?
――へ? 何で?
――あんたとか呼ぶのもどうかと思って
――変なこと気にするね。うーん、でも名前かぁ
――何か不都合でもあるのか?
――下手に教えてストーカーになられても困るし
――ならねぇって…… っていうか、なる奴は名前知らなくてもなるだろ
――そっか、でも一応偽名にするね。シュウちゃんです
――偽名っていうか、愛称? まあ、いいけど。で、シュウちゃんがここにいる理由がそれなわけ?
――ううん、今のは関係ない。ただの愚痴
――愚痴かよ……
――いいじゃない、別に。ていうか、あなたは名前何ていうの? 私にだけ名乗らせるなんてフェアじゃないよ
――ああ、そりゃ悪かったな。皆口だよ
――おりょ、本名?
――俺には別に名乗らない理由、ないし
――ふーん、危機意識が足りないなぁ。皆口クンは
――っていうかさ…… 気付かないわけ、秀子
――気付かないって何が…… ん? あれ、名前
――山崎秀子、鏑矢高校の九十八年卒業生。三年の時は一組
――うわ、何? ストーカーになるんじゃなくて、すでにストーカーでしたってオチ?
――皆口博、同じく鏑矢高校九十八年卒業。元三年一組
――へ? あ、あぁ! 博クン!
――遅いって…… 皆口って聞いた時点で気づけよ。俺はシュウちゃんで気づいたぞ。秀の字だからシュウちゃんって安直だな
――う、うるさいなぁ。ていうか、顔では気付かないの?
――そんなありふれた顔ひっつけといて、贅沢言うな
――あ、ひどい
――事実だろ。それで、結局のところ秀子は何でここにいるわけ?
――ふっふっふ…… 聞いて驚け!
――早く言え
――もう、ワビサビがわかってないんだから…… ま、いいか。私がここにいるのはねぇ、なんと! 窃盗の罪なのです。しかも驚くなかれ前科七犯よ!
――いばれることかよ…… ちなみに俺も窃盗。前科は十だ
――うわ、負けた!
――君達うるさい! 大人しくしてなさい!
――はーい、お巡りさん
――ちっ。わかったよ……

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