拍手小話六:「あの頃君は若かった――ローラ編」
賢王ラルス16世の一子であるローラが五歳であった時の話。彼女は初めて球を投げた。
「ねぇ、おとうさま? これをどうするの?」
動きやすそうな、それでいてどこか上品さを有した服を着た少女が訊く。彼女こそはこの国、ラダトームの姫君ローラであり、その視線の先には賢王と謳われる時の王、ラルス16世がいた。
ラルスもローラ同様動きやすい服装をしており、忙しい仕事の合間をぬって、これから球遊びをしようという所なのである。
「それを私の方へ向け投げるのだ。それを私が受け取り、そしてまたお前に向け投げる。それを繰り返して遊ぶのだよ」
「ふぅん」
ラルスが優しい笑みを浮かべて説明すると、ローラはそれを受けて手の中の球をぺたぺたと触る。そうして手に馴染ませ、しばらくすると――
「じゃ〜、いくよ。えいっ!」
びゅっ!!
ローラの右手から宙に飛び出した球は、弾となりラルスの頭の横を目にも留まらぬ速さで駆け抜ける。そのままの勢いで弾は街の方向へと飛び行き、見えなくなった。
…………………………
「よし。やはりままごと遊びにするか」
「ローラ、さんせぇ。つまんないよ、これ」
微かに引きつった顔で言ったラルスに、ローラはそのように応えつつ駆け寄る。
その日、ラルスやローラの身辺を世話する者達の間でのみ囁かれる伝説が生まれた。
ちなみに弾は、街を歩いていた六歳の少年の頭を運悪く直撃した。しかし、その少年は著しく丈夫であったため、相当痛がったらしいが、特別問題は起こらなかったそうである……