注意!
この先にある文章は東方紅魔郷を基礎においた小説ではありますが、
管理人であるmakerSatの能力の限界によりゲームがクリアできておりません。
そのため、会話の一切を見ることができておらず、本家に忠実ではありません。
勿論、スペルカードがどんな効果であるかも知りませんので、
FINAL STAGEまでは一応頑張っていた、弾幕に関する記述もほぼありません。
もはや、東方なんだか何なんだか判ったものでは御座いません。
更に言えば、捏造っぷりがFINAL STAGEと比べて1.5倍(当社比)くらいになっており、
文章の長さは同STAGEの約2倍まで膨れ上がっております。
そんなのだるくて読んでられねぇという方、もしくは、捏造なぞ認めないという方は、
申し訳ありませんがブラウザの戻るボタンを押して下さいますようお願い致します。
問題ない、という方のみ、↓のリンクからEXTRA STAGEへ向って下さい。
東方紅魔郷 EXTRA STAGE : 東方紅魔狂 〜 Sister of Scarlet
山深き地。愈々夏という時節において、緑に包まれた神の社では命短き虫達が時を惜しむように啼き続けていた。そして、虫達がせわしく生きるための居として選んだ木々の合間を縫い、強い日差しが境内を照りつける。
はぁ。
常の如く石畳を竹箒で掃いていた少女は、空を仰ぎ見てため息を吐いた。
「良い天気なのも考えものね…… 暑くて仕方ないわ……」
彼女の瞳を光が襲う。天を彩る陽の光。その光は眩さのみならず熱を地上の者達に齎す。哀れな地上の子はそれでもめげず、竹箒を握り直して境内の掃除を続ける。
しかし、それも長くは続かなかった。
「はあぁああぁあぁぁ…… やる気しなーい…… 昨日作っておいた麦茶がぶ飲みしてから昼寝しよーっと」
竹箒を杖代わりとし、少女――博麗霊夢は重い足どりで境内を横切る。そうして、住居もかねた社務所へと向う。居間へと繋がる障子を開け放つと――
「おう。お疲れさん」
「霊夢。もう少し台所を充実させなさい。お嬢様にお出しするお菓子すらないだなんて……まったく!」
彼女を迎えたのは、脚を投げ出して座っている魔女と背筋を伸ばして正座しているメイド、そして、メイドの側で豪華な椅子に腰掛けている悪魔だった。魔女の前には霊夢が作り置きしておいた麦茶が、悪魔の前には高価そうなカップに注がれた紅茶が用意されている。
「……いつの間にここはこんな大所帯になったのかしら?」
「あら。私達はただのゲスト。貴女に養って貰うつもりはないわ」
悪魔が――紅魔館の主レミリア・スカーレットが応えた。
すると、霊夢は目つき鋭く声を荒げる。
「そういうことを言ってるんじゃないわよ! 勝手に入るなって遠回しに言ってるの!」
「まあ、いいではないの、霊夢。どうせ盗まれるようなものもないのだし」
「そういう問題ではないと思うぞ。人のことは言えんが」
笑みを浮かべて応えたレミリアに、魔女が――霧雨魔理沙が呆れた様子で言葉を紡いだ。しかし、直ぐにその口を噤むこととなる。
「黙りなさい。お嬢様の仰ることに間違いなどないわ」
どこからかナイフを取り出し、低い声で語るのはメイド姿の少女。名を十六夜咲夜という。その咲夜の言葉を契機として魔理沙が苦笑と共に黙り込んだ。そのため、数秒の沈黙が訪れる。そして、しばらくしてその沈黙を破ったのはレミリアであった。
「さて、そろそろディナーの時間だと思うのだけれど…… 霊夢。今日のメニューは何かしら?」
「焼き魚とお味噌汁とご飯よ。勿論、私の分だけ」
「あら。ゲストをもてなすのは家主の義務よ?」
「文句があるなら夕飯分に相当するお賽銭入れなさいよ。てか、さっさと帰れ」
その態度に咲夜は瞳を細めたが、レミリアは特に気にした風も無い。苦笑し、視線を社務所の外へ向けて再度口を開く。
「それは無理な相談というものね。アレを見なさい」
霊夢、魔理沙がレミリアの視線の先に瞳を向ける。彼女の瞳が向く先は上空であった。博麗神社から遠く離れた地。湖があると思しき地の上空を見上げていた。そして、そこにあったのは――
「えっらい局所的に雨が降ってるな。異常気象ってやつか」
「ホントね。うちじゃなくてよかった」
「あれ。紅魔館よ。紅魔館をすっぽり覆うように雨雲が発生しているの」
各人の感想のあと、被害を受けている当人が口にした。
しかし、被害を受けていない第三者は特に感慨もないようで、
「ふぅん。そりゃ大変ね。でも帰れ」
にべもなく言い放つ。
そんな巫女の様子にレミリアは肩をすくめる。そして、咲夜に瞳を向けて困ったように笑う。
「私達もそうしたいのはやまやまなのだけれど……ねぇ、咲夜」
「ええ。雨が降っていてはどうしようもありません」
悪魔とメイドの言葉に、巫女は首をかしげる。
「何でよ? 濡れるのくらい我慢して帰りなさいよ」
「いや待て、霊夢。なぁ、あんたの種族って確か水が苦手って伝承があったよな。もしかしてあれ、本当なのか?」
魔理沙がレミリアに瞳を向け、訊いた。
すると、青髪の悪魔は不機嫌そうに顔を歪め、応える。
「脆弱な人間に弱点を晒すのはしゃくだけど、本当よ。まったく忌々しい」
その様子を目にした霊夢は、若干機嫌を直し、呟く。
「……なるほどね。それでか。次に貴女が何かやったら水鉄砲片手に相手することにしましょう。でも、だったら咲夜がレミリアを毛布で包んで飛んでけばいいんじゃないの?」
「それは素晴らしいアイデ――う、ううん、駄目よ。主を抱くなど、そのような無礼なことはできないわ」
「微妙に本音が出てたけど……まあ、後半の意見ももっともといえばもっともね。けど、それならどうするのよ。ずっとここに居られても迷惑なんだけど」
霊夢がそのように訊くと、レミリアは口もとを歪め、霊夢、魔理沙を指差す。
「あら。それは問題ないわ。ここには、この間の紅霧事件を解決した優秀な人材が揃っているじゃない?」
「……つまり、私達が紅魔館まで行ってあの雨の原因を除いて来い、と?」
その問いに悪魔は怪しく微笑む。
霊夢は目つきを鋭くし、
「冗談じゃないわよ。面倒くさい。それこそ咲夜にでも行かせればいいじゃない」
「私はお嬢様のお世話をするので忙しいのよ。貴女や魔理沙じゃ紅茶も満足に淹れられないでしょうし」
涼しい顔で咲夜が言った。
その様子を目にした霊夢は、きっと視線を鋭くして胸を張る。
「私だってこれからダラダラと寝転びつつ麦茶を飲むので忙しいのよ!」
「霊夢。それは忙しいとは言わないと思うぞ」
「五月蝿いわね、魔理沙! 貴女だって紅魔館くんだりまで行きたくないでしょう?」
訊かれると、魔女は頭をかきつつ考え込んだ。そして、霊夢が期待するのとは違う答えを打ち出す。
「んー。わたしは行ってもいいけどな。ちょっと面白そうだし。ついでに、パチュリーのとこの本を借りてきてもいいし」
「あ、そういえば魔理沙。パチェから伝言があるわ。借りるのはいいけどちゃんと返せ、ですって」
「考えとくぜ」
歯をむき出して笑った魔理沙からは、考えとくけどたぶん返さないぜ、という思考を窺えた。しかし、誰もそこには言及しない。実質、自分自身に被害がないためだろう。
そして、巫女が別の件で魔女に声をかける。
「なら魔理沙だけで行ってくれば。私はさっきも言った通り忙しいのよ。夕飯の準備だって――」
「あ。霊夢。あの雨止ませられたら、今日は紅魔館でご馳走するわよ? 今日のメニューは何かしら、咲夜」
「はい。白身魚とメロンのサラダ仕立て木の実添えから始まり、冷たいポテトのスープ、皮付バラ肉のプレサレ、仔鴨と茄子のピエスモンテ、仔羊の網焼き野菜添え、牛ホホ肉の赤ワイン煮と続きます。そしてデザートは、桃のコンポート、ヨーグルトのジェラート添えとなってますわ」
咲夜による長い説明が終わる。その大部分の単語を理解できなかった霊夢であったが、だらしなく開いた口元からは危うくヨダレが垂れそうになっていた。それゆえ――
「行ってきます! さあ、行くわよ、魔理沙!」
御札や陰陽玉を用意し、すぐさま飛び出していった。
それを呆然と見送った魔理沙は、しばらくして徐に立ち上がり、
「やれやれだぜ」
そう呟いてあとを追った。
残された悪魔とメイドは、祈るような瞳で彼女達を見送っていた。
居眠りをしている門番――紅美鈴の脇を抜け、霊夢、魔理沙は紅魔館の正門を堂々と潜る。
「あの子、この雨の中でよく眠れるわね。よっぽど疲れてるのかしら?」
「もしくは、筋金入りの居眠り魔なのか、だな。それはともかく、さっさと中に入ろうぜ」
「そうね」
二名は小走りで玄関へと向う。ノックをしても誰も来る気配がないため扉を引いてみると、意外にもすんなり開いた。霊夢、魔理沙の順に内部へ侵入し――
「……ふぅ。あの悪魔が不在だってのに、また怪しい気が蔓延してるわね。何なのよ、この館」
「あいつら、このこと知っててわたしらをここに向わせたのかもな」
「つか、十中八九そうでしょ。夕飯だけじゃなく、宿泊と明日の朝食も責任もってもらうとしましょう。さて、気配が強いのは……あっちね」
先を行く霊夢に従い、魔理沙も歩を進める。その間、時折破壊音が木霊していた。緊張が高まる。
そんな中、以前の侵入口である図書館の扉を横目に奥へと向い、霊夢とレミリアが一戦交えていた廊下を通る。ちなみに、廊下は既に修繕されたあとだった。そして、更に先へ進もうとした、その時――
「待ちなさい。そこから先へは向わない方がいいわ。さっさと帰りなさい」
「お。パチュリーじゃん」
魔女――パチュリー・ノーレッジの表情が硬いのに対し、魔理沙は相好を崩して片手をあげる。そんな軽い挨拶に反応を示すこともなく、魔女は続ける。
「本ならまた今度貸してあげる。悪いことは言わないから、今日は帰りなさい。そちらの巫女も」
「そう言われても、私達はそちらさんとこのお嬢様から依頼されて来てるのよ。はいそうですかと帰るわけにはいかないわ」
霊夢がそのように返すと、パチュリーは戸惑った表情で言葉を呑む。そして、しばし考え込んでから視線を緩める。
「レミィがこのタイミングで貴女方をここに向わせたというのなら、何かしら意味があるのでしょうね。判ったわ。帰れとは言わない。でも――」
そこで、魔女は再び鋭い目つきで霊夢と魔理沙を見やる。そして一言だけ添える。
「気をつけなさい」
「……ん。よく判らないけど、どうも」
「ちなみにこの先には誰がいんだ? すっげぇプレッシャーを感じる上に、何やらすっげぇ音がしてるけど」
どおおぉんっ!
魔理沙の言葉にかぶさって、幾度目になるか判らない破壊音が木霊する。それに伴ってしばしの沈黙が続いたが、気を取り直したようにパチュリーが咳払いをした。そうしてから、彼女は呆れたように言葉を紡ぐ。
「レミィったら、何も教えてないの? まぁ、彼女はそう易々と自分のことを語りはしないだろうけれど……」
「雨が降ってて帰れないってことしか言ってなかったわね。雨の原因となっている者の心当たりも聞いてないし」
「雨? ああ、それは私が降らせているわ。妹様を外へ出さないためにね」
ぱしっ!
「痛っ。って、何するの!」
霊夢に頭をはたかれたパチュリーは、珍しく声を張り上げて抗議する。一方で、霊夢は悪びれることもなく言葉を紡ぐ。
「いや。貴女が原因だってんなら、とっとと倒してディナーにありつこうかと……」
「……ふぅ。成る程、そういう事情なのね。とはいえ、レミィが本当に望んでいるのは雨が止むことではないわ。間違いなく、妹様に関係すること」
パチュリーの言葉を受け、魔理沙が眉を顰める。そして、疑問を口にする。
「なあ、パチュリー。その『妹様』ってのは何なんだ?」
「フランドール・スカーレット。この先にいる、レミィの五歳年下の妹」
霊夢、魔理沙に緊張が走る。この先にいるということはつまり――
「けど、どうしてレミリアの妹がこの館で暴れてるわけ? レミリアを困らせようって腹? 姉妹仲が悪いの?」
「いいえ。仲はすこぶるいいわ。今貴女方が直面しているこの事態だって、レミィを困らせようとしているわけじゃない。ただ、遊びたがっているだけ」
『遊びたがってる?』
訪問者である二名は、揃って訝しげな表情を浮かべる。
パチュリーはそんな二名を見返し、頷く。
「そう。あれは彼女の『遊び』なの。全ての行動が破壊に繋がってしまう程の強い力を有した悪魔の妹。そんな運命に振り回され続ける哀れな少女の、悲しい遊び」
「全ての行動が破壊に繋がる……?」
「言葉の通りよ。強すぎる力の弊害。彼女の力は、生れ落ちたことにより母親を破壊し、産声を上げた事で父親を破壊した。その後も、幾名もの使用人を破壊し、その結果、まだ幼かったレミィの判断で、地下に幽閉された。それ以来、四百九十五年もの永い歳月、地下で暮して来たのよ」
「……? 破壊音は地下から響いている感じじゃないわよ?」
「そりゃそうよ。今は上に出てきてるのだもの」
霊夢の疑問に、パチュリーは、何を今更という口調で応えた。
霊夢、魔理沙の顔に緊張が走る。
「となると、ここは相当な危険地帯ということになるが……」
「まさにその通り」
これまた、何を今更という口調のパチュリー。彼女の言葉を受けた二名は顔を見合わせ――
「よし。逃げよう」
「って待てーい! ここまで来て逃げるのかよ!」
いい笑顔で言い放った霊夢に、魔理沙が全力で抗議した。
「そりゃそうでしょ! 豪華な夕飯如きに命までかけられないわよ! つか、魔理沙は何でやる気満々っぽいのよ!」
霊夢もまた声を荒げて言い返す。
すると、魔理沙はなぜか視線を泳がせ、口ごもる。
「え。いや、そりゃ、その、何つーかだな……」
「何よ?」
「その、だな。レミリアが何考えてるか、何となく判っちまったから、かな……」
魔理沙の言葉を受け、パチュリーが小さく笑う。
霊夢は小さく息を吐き、魔理沙を見やる。
「……どういうこと?」
「たぶんだけど、妹と友達になって欲しいんだろ。正直、友人関係ってのはこんな風に意図的に作るもんじゃねぇとは思うけど、でも、あいつもそうせざるを得なかったんだろ」
「……」
霊夢は沈黙のみで応える。
「なあ、霊夢。お前だって覚えのひとつくらいあるんじゃないのか? 他と違う力、強すぎる力を持った人間が受ける扱いは大概の場合、決していいもんじゃあり得ない。フランドールって奴ほどじゃないけど、わたしだってこの魔法の力は忌むべきものとして扱われ、辛いことだってそれなりにあった。友達だって、正直なところあまりいない。ましてやフランドールは、全てを破壊するほどの力を持っているんだ。運良く友達ができたって、自分の手で破壊してしまわないとも限らない。だから――」
「無理やりだって何だって、破壊に耐え得る程の力ある者を彼女に引き合わせる必要があった、友達として。それが私達だって言いたいわけね」
「ああ」
真剣な瞳を携えて魔理沙が頷く。
それを目にした霊夢は、深く深く息を吐き、それからきっと視線を上げた。
「判ったわよ。私も行く。……貴女が言う『覚え』もないわけじゃないしね」
「霊夢!」
パチュリーは、訪問者二人が笑い合っている様子を、微笑を浮かべて眺めていた。そして、しばらくすると歩を進める。
霊夢、魔理沙の視線がそちらへと向かう。それを確認したパチュリーは、手招きをすることで用件を語る。即ち、フランドール・スカーレットの元へ案内する、と。
「あ。パチュリー見っけ!」
割れた窓。穴の開いた床。原型を止めていない書棚や卓、寝具。そのように破壊されつくした部屋に独り佇んでいた金髪の幼女は、扉を開けたパチュリーを目にして大きな眼を輝かせた。
「見つかってしまいました。妹様は隠れんぼがお上手ですね」
「隠れんぼだったのか、これ」
「まあ、壊し尽くせば嫌でも見つかるものね」
パチュリーが幼女――フランドールの相手をする一方で、霊夢、魔理沙は小声で呟く。そんな彼女達をフランドールが瞳に入れ、無邪気に笑う。
「そっちはこの前、お姉様と遊んでた人達だよね」
突然の言葉に息を呑む二名。
「? どうして知っているの?」
「お姉様に教わったの。自分がいる場所とは違う場所を『見る』方法。地下は退屈だから偶に見ているの」
「そりゃ不思議な特技だな。とすると、わたし達の名前も知ってるのか?」
魔理沙の問いにフランドールは嬉しそうに笑う。
「うん! 魔理沙に、そっちは霊夢でしょ?」
「ご名答。自己紹介する手間が省けて幸いだわ」
優しく微笑んで霊夢が言う。
「まったくだな。お前はフランドールだよな。よろしくだぜ」
続いて魔理沙が言い、フランドールに近寄る。
「あ。フランでいいよ。言いづらいでしょー」
「そっか。ならそう呼ばせて貰うぜ。ところで――」
魔理沙が言葉を切ったことで、フランは微笑みながら首を傾げる。それに伴って、しなやかな金の髪がふわりと揺れる。
そして、それ目がけて――
ごつんっ!
「痛っ」
フランドールの小さな悲鳴が上がる。魔理沙が振り下ろした拳を因として。
「ちょ! 何やってるのよ、魔理沙!」
パチュリーがまなじりを上げ、それでいて、幾分及び腰で声を荒げる。一方で、霊夢は特に反応するでもなく魔理沙を見ている。
そんな二名を振り返ってからにやりと笑い、魔理沙はフランドールに向き直る。
「なあ、フラン。何で殴られたと思う?」
「え? 判んない……」
魔理沙は、戸惑った様子のフランドールの目線に合わせるためしゃがみ、更に言葉を続ける。
「悪いことをしたからだ。悪いことをしたら叱られるのが普通なんだぜ?」
「……ぷっ、あはははははっ!」
咲夜が台所で淹れてきた紅茶を運んでいると、突然彼女の主が笑い出した。
従者は驚き、訊く。
「ど、どうかされましたか。お嬢様?」
「いえね。そういえば……私はあの子を叱ったことがなかったなぁと、今更気付いたのよ」
おかしそうに含み笑いをしながらレミリアが応えた。そして、独白を続ける。
「あの子の破壊の運命がいつまでも在り続けるのは、あの子自身がそれを忌むべきものと認識しなかったせいだったのね。破壊が悪いことであると叱る者は、あの子の周りにいなかった。あの子と共に在った私が、そうしなかった。それなのに、私は――」
レミリアは苦笑を浮かべ、そうしてから徐に立ち上がる。
そして――
「悪いこと? わたし、何もしてないよ? 遊んでただけだよ?」
「遊んでただけならいい。けど…… ほれ、この部屋。壊しただろ? それが悪いことなんだ」
「でも、壊れたら直せばいいでしょ? 前にお姉様がくれた人形を壊した時だって、お姉様が直してくれたわ」
魔理沙はゆっくりと首を振るい、軽く微笑みつつ口を開く。
「確かに、壊れたものは直すことができる。けどな。それは見た目がどうにかなるだけだ。本当に大事なものは絶対にもとに戻らない」
「本当に大事なもの?」
問われると、魔理沙は苦笑を浮かべ、考え込むように腕を組んで目を瞑った。
「んー。そうだな。例えばだぞ。さっきお前が言ってた人形、まだ持ってるか?」
「うん。宝物だもん」
「それをわたしが壊したらどうだ」
「また直してもらうわ」
「ああ。そうだろうな。けど、もっとちゃんと想像してみてくれ。お前がそれを大事に思う理由は何だ?」
「お姉様からもらった大事なものだからよ」
「それだけか?」
更に問われると、フランドールは可愛らしく首をかしげ、懸命に思考を巡らす。そして、人形が壊れてしまった当時の情景を鮮明に思い出す。笑みが浮かぶ。
「……あのね。お姉様はね。お裁縫なんてできない人なの。でもね。あの人形、直してくれたのはメイドの誰かじゃなくて、きっとお姉様なの」
「へぇ。あのレミリアが…… ちょっと想像しづらいわね」
それまで口を噤んでいた霊夢は、意外な事実に思わず言葉を漏らす。その言葉を耳にしたフランドールはおかしそうに笑い、それから嬉しそうに言葉を紡いだ。
「手がね。傷だらけだったの。隠してたけど、針で刺した傷がいっぱいだった」
その時のことを思い出したのだろう。幼女は微笑む。
「……嬉しかったぁ」
魔理沙はそんなフランドールの様子を見詰めて笑み、それから口を開く。
「なあ、もう一度訊くぞ? わたしがその人形を壊して、そして直して、また渡したら、どう思う?」
再び為された問いに、今度は戸惑うフランドール。
「何だか嫌かも」
「どうしてだ? ちゃんと直ってるんだぞ?」
「でも……何か嫌……」
フランドールは俯き、弱弱しい言葉を紡ぐ。
そんな幼女を瞳に入れ、魔理沙は苦笑を浮かべる。そして、立ち上がって右手でフランドールの金の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「だろ? 壊れるってのはそういうもんだ。全てが元に戻ることなんてあり得ない。人の命もそう。決して元に戻ることなんてない。だから、破壊は悪いことなんだ。仕方なく壊してしまうこともあるかもしれない。でも、それでもなるべく、そうならないように努力しないといけない」
魔理沙の言葉を受け止め、フランドールは戸惑いを覚えた。破壊が悪いものだと、そう言われてしまったなら……
「でも、わたしの力は破壊するだけ。なら、わたしが生まれてきたことは、生きていることは、悪いことなの? わたしは――」
「あのずる賢いちびっ子の妹とは思えないわね。馬鹿すぎるわ」
青い顔で話していたフランドールを遮り、今度は霊夢が言葉を紡ぐ。
「今聞いていて判ったけれど、貴女の力は制御できないものではないわ」
「え?」
「だってそうでしょう。全てを破壊するしか能がないというのなら、なぜその人形は未だに在るのよ」
「それは、大事なものだから……」
「なら、貴女は全てを大事だと思えるようになればいい。全てを愛しいと感じ、全てが守るべきものであると認識すればいい。そうすれば、貴女は何も、誰も破壊せずに済む。難しいでしょうけどね」
苦笑して、霊夢は一度言葉を切る。そして、直ぐに口を開き、続ける。
「それに、生まれてきたことが悪いだなんてあり得ないわ。貴女は力を持って生まれた。力が何かを奪ったこともあるかもしれない。でもそれは、その力が何かを守れることの証左でもある。要は……使い様ね。貴女の存在は、悪いことなどでは、決してないのよ」
笑顔で言い切った霊夢。
そんな彼女を瞳に入れ、フランドールはなぜか胸が苦しくなった。息が上手く出来なくなり、瞳は潤む。それは哀しいからではなかった。辛いからではなかった。しかしそれでも彼女は、零れ落ちた雫を契機として、辛い、哀しい何かを思い出した。おぼろげな記憶の中で為したこと。思い出したくなどないのに、思い出さずにはいられないこと。この世界で初めて為したこと。
「いやああああぁあああぁああぁあ!」
甲高い叫びが木霊する。そして――
どがあああぁあああぁあ!
生み出された光が建物を破壊する。光の進路に在った全ては消え去っていた。それに続けて幾筋もの光が放たれ、紅魔館はすっかり原型を留めない程となってしまった。
吹き曝しとなった館内に雨が落つる。
「……私、何か駄目なこと言ったかな?」
「いやぁ。特にそんなこともないと思うんだが……」
フランドールが生み出す光を避けつつ、二名がごちる。そうしていると、パチュリーもまた彼女達の下へやってきた。
「気にする必要はないわ。感情が高ぶったことで自分で自分を制せなくなっただけよ。それにしても、一応皆を避難させておいてよかったわね」
「館内で誰にも会わないと思ったら、全員避難してたのか。ん? あの門番はいたぞ?」
「あの子は一応、もしもの時は戦力になるから。それより――」
どがあああぁあああぁあ!
三名が一斉に散ると、たむろしていた箇所を光が襲う。そのように、光は誰かに向けて放たれる場合もあれば、何もない空間に放たれる場合もあった。制御ができていないことの証明であろう。
「あれ? そういえば雨が……」
霊夢が手の平を上方に向け、呟く。降り続いていた雨が止んでいた。
「妹様のあれを避けながら雨降らしの魔法を使い続けるのは体力的に無理があるのよ。それに、ずっと雨に打たれてたら、私すぐに体力なくなるだろうし」
「この状況でこの前みたいなことになったら、まあやばいよな」
「なるほどね。にしても、どうしたものかしらねぇ」
パチュリーの言葉に納得すると、霊夢は苦笑を浮かべつつフランドールを見やる。ひたすらに破壊の光を生み出す幼き少女。彼女の大きな瞳からは大粒の涙が、小さな口からは哀しき哄笑が生み出されていた。
そこで魔理沙が動く。フランドールがいる方向へと。
「ちょっと魔理沙! どうしようっての!」
「考えてたって仕方ないぜ! わたしがフランの注意を惹いてそっちにあの光がいかないようにする。その間に力を溜めてありったけの攻撃を打ち込め! きかん坊には刺激を与えりゃ一発だ!」
そう叫び、右手の親指を立てた魔理沙は、実際にフランドールの気を惹く行動を始めてしまった。光が幾筋も魔理沙に向う。彼女はそれらを何とか避けてはいるが、余裕はないように見えた。
「……ふぅ。そう簡単にいけばいいけど……今はやるしかないか。パチュリー」
「ええ。幸い今日は体調もいいし、最高の魔法を見せてあげるわ」
「……くっ! 正気じゃないせいか、攻撃がただの力押しなのは幸いだが…… それにしてもきついぜ! ほっ!」
箒にまたがり、上下左右と縦横無尽に回避行動を取る魔理沙。幾度か危うい場面を迎えはしたが、順調に避け続ける。そうしながら、辛そうにしているフランドールを目にし、彼女もやはり辛そうに顔を歪めた。
「い、居眠りしてる間に……何これ! ちょ、え! ええぇ! 夢? これ夢!?」
大きな音に驚いて門内部を覗き込んだ紅美鈴は、驚愕と共に叫ぶ。
彼女の視線の先には護るべきもの――主が座する紅魔館があるはずだった。しかし、彼女の視界に入るのは無惨に破壊され尽くした建物と、折れて倒れた木々。そして、放たれる度に夜空を照らす光線だけである。
戸惑い、あたふたと視線をめぐらしていると、くだんの光線が美鈴のいる方向に飛んでくる。美鈴が慌てて避けると、光線は堅牢な門のみを破壊して飛び行く。紅魔館は門さえも原型を為さないという事態を迎えた。そしてそのことにより、美鈴はこれが夢ではなく現実なのだと漸く認識した。
「もしかして妹様? というか、もしかしなくても妹様よね。確か今日はお嬢様も咲夜さんもお出かけしてるし、妹様のお相手をできそうなのはパチュリー様しかいないはず…… よし! 私も――」
「待ちなさい」
「ふえっ!?」
勢い込んで走り出そうとした美鈴は、後方から何者かに呼び止められて間の抜けた声を上げる。そして、立ち止まってそちらを見やる。そこにいたのは――
「咲夜さん! 帰ってたんですか?」
「たった今ね。というか、美鈴。こんな状態になるまで現状に気付かなかったってことは、また……」
「い、いえ! 寝てませんよ? ちょっとうとうとーってしたことはありましたけど、寝てません!」
鋭い視線を向けてくる咲夜を瞳に映し、美鈴は慌てたように手を振って否定する。しかし、そうすればする程、居眠りをしていたことが明白になっていくようであった。
咲夜は眉を顰めてため息を吐き、しかし、それ以上は言及しない。
「まあいいわ。そのことに関してはあとでじっくりと話しましょう。それよりも、貴女はあちらへ向わなくてもいいわ。待機しなさい」
「え、でも……」
美鈴は不安そうに咲夜を見返し、それから光線が飛び交う現場に視線を移す。
しかし、咲夜は動じることもなく、信頼を込めた瞳で美鈴が見詰める先に視線を送る。
「大丈夫よ。私達の主が、夜を統べる者としてでもなく、紅魔館の主としてでもなく、ただ、一人の姉君として、ただ、妹様を護るために、そのためだけに向われたのだから」
「霊符、夢想封印っ!!」
「日符、ロイヤルフレアっ!!」
霊夢、パチュリーがそれぞれ力を放つ。人の放つ強き光と、魔女の放つ日の力。轟音を立ててそれぞれが駆け抜け、瞬時にフランドールへと向う。そして、フランドールは防衛本能に従い、向ってきた力を迎え撃つ。哀しき悪魔の放つ光が、二者が放つ強大な力を抑える。
その様子を見た魔理沙は、フランドールの注意が自分からそれた隙に地面へと降り立ち、二者に合流する。そして――
「恋符、マスタースパークっ!!」
光を放った。光は力が均衡している箇所まで至り、そして、加わる。しかし――
「……くっ! おいおい。わたしの力が加わっても、さっきの均衡状態から変化なしってのはどういうこった!」
「それどころか、押され始めたみたいよ。どうやら、段々と力が増していっているようね……」
「ええ。このままだと押し切られるでしょう」
霊夢の言葉に続いて、パチュリーが冷静かつ残酷な分析を打ち出した。そして、しばし無言で意識を集中するだけの時が訪れる。しかし、そのように力を放出することのみに意識を向けようとも、フランドールの攻勢を押し退けることはできなかった。彼女の生み出す光が三つの力を浸食し、愈々、その力の発現者達を飲み込もうという頃合い――
「だらしないわね。三人も居ながら」
ゆっくりとした足どりで近づいてきた者が声を上げた。
「その声はレミィ? 帰っていたの?」
「ええ。それよりも――」
レミリアはパチュリーとの会話を早々に打ち切り、掌に力を込める。そして――
「……紅符、スカーレットマイスタ」
呟きに伴い――紅が夜を染める。
フランドール・スカーレットは立ち上がれずにいた。強い力をその身に受けた代償に。しかし、全ての力を使い果たした訳ではなかった。脳裏から消えぬ記憶。それを振り払うべく、彼女は再び叫ぶ。そして、光を放つ。その結果として何が起こるのか。そのことまで考える余裕などない。ただ、ただ、嫌なことから逃げるべく、彼女は叫び、笑い続ける。
そのように、哄笑が響き、哀しき光が天を照らし続ける、その最中――
「フラン」
ふわっ。
フランドールの体を温かい何かが覆う。しかし、フランドールにはそれが何なのか判らない。認識できない。それゆえ、必死に体をよじり逃れようとする。しかし、その温もりが消えることはなかった。もがき、もがき、それでも残り続ける温もり。それは、嫌な記憶よりも更に遡った先。その頃を想起させる。その頃フランドールは優しい温もりに抱かれ、優しい想いに護られ、幸せに、とにかく幸せに在った。
「……あったかい……」
「気がついたようね」
「……お……ねえさま」
ゆっくりとフランドールの瞳が開かれた。それにより、方々で吐息が漏れる。
「もー、心配しましたよ、妹様!」
「暴れるだけ暴れて急に動かなくなるんだもんな。マジでやばいかと思ったぜ」
美鈴と魔理沙が笑顔を浮かべてフランドールを覗き込み、言った。パチュリーや咲夜、霊夢も安堵した表情で彼女を見やる。
そして、レミリアもまた、彼女を抱き優しく笑んでいた。しかし――
「ていっ!」
「わきゃっ!」
突然レミリアが頭をフランドールに向けて下げた。それにより、フランドールの頭部に鈍い痛みが走る。要するに、頭突きしたのである。
「お、お姉様…… 何を……?」
「何をじゃないわよ! まったく…… 紅魔館を滅茶苦茶にして。ここまで壊れてしまったらそうそう直らないわよ」
そう言ってレミリアが視線を巡らす。
それに従いフランも辺りを見回してみる。すると、紅魔館と認識できるものは一つとしてなかった。荘厳な屋敷も、瀟洒な庭も、堅牢な門も、何もかも存在しなかった。あるのはひたすらに瓦礫のみ。
フランドールは顔色を青くし、怯えた瞳をレミリアに向ける。
「ご、御免なさい、お姉様。わたし……」
「ふふっ」
「え?」
瞳を伏せて侘びを述べたフランドール。しかし、突然聞こえたレミリアの笑い声に、戸惑った様子で視線を上げる。そこにはおかしそうに笑う姉の姿があった。
「お姉様……?」
「知っている、フラン? 私が貴女を叱ったのは、これが初めてだということを?」
問われたフランドールは、瞳を瞬かせ、しばらく考え込み、そして、そういえば、と呟く。
「私は今まで貴女に優しくすることばかり考えていたわ。でもそれは、きっと逃げていただけ。貴女の破壊を恐れ、貴女に憎まれることを恐れ、そして、貴女を憎んでしまうことを恐れていただけ」
フランドールは首を傾げる。姉が述べた最後の言葉の意味を知れずに。
「お姉様が……わたしを憎む? けれど、お姉様はいつも優しかったわ。そんなこと――」
「……貴女は父を、そして母を……破壊した。私がそれを憎むことが一度もなかったと、貴女はそんなことを信じているの?」
「……っ!」
妹が息を呑む。
「お、お姉さ――」
「そう怯えた顔をしないの」
震える声を出したフランドールに、しかしレミリアは、優しい笑みを浮かべて対する。
「確かに、貴女を憎んだことはある。それでも私は、貴女が生まれてきたことを、貴女が存在することを拒んだりはしないわ。だって――」
フランドールを再び温もりが包む。忌むべき記憶から逃げる最中、包まれた温もり。
「貴女のこの柔らかい髪が、大きな瞳が、鈴を想起させる可愛い声が…… 貴女の全てがいとおしいから。貴女を――とても、とても愛しているから」
優しい温もりに抱かれ、フランドールは瞳を閉じる。そうすると、自然と笑みがこぼれる。長く、永く、その温もりに包まれる。
「お姉様……」
しかし、しばらくすると――
ばしっ!
再び頭部に痛みが走る。
「いたいっ」
「けど! だからって叱る時は叱らないと駄目だったわね。まったく…… そんなことに五百年近く経った今、しかも脆弱な人間如きのおかげで漸く気付くとはね」
その言葉を耳にし、フランドールは、ごめんなさい、とすまなそうに、それでいて嬉しそうに呟く。一方で、魔理沙が訝しげに口を開く。
「てか、さっきの会話聞いてたのかよ」
「フランも言っていたでしょう? 違う場所を『見る』方法を私から教わった、と。それよ。……ところで、魔理沙」
「ん?」
「一応、感謝するわ」
無表情で言ったレミリアを目にし、魔理沙は二、三度瞳を瞬かせ、
「おう」
歯をむき出して笑い、応えた。
それに対し、レミリアは軽く微笑み、それから、また妹に瞳を向ける。
「とにかく、もう過ぎてしまったことは仕方ないけれど、建物をむやみに壊しては駄目よ。勿論、建物以外も。理由は――もう判るわね」
「うん」
「ただし、今回のようにどうしようもない場合もあるでしょう。そんな時は――」
そこでレミリアは瞳を巡らす。周りに集まった面々。紅魔館に住まう者と、そうでない者と、皆を見渡す。そして、再び腕の中の者を見詰める。
「こうして貴女を支える者達がいる。貴女の破壊の運命を受け止め、それでも側に居る者達がいる。勿論、私もその一人。だから――」
言葉を切る。そうしてから、レミリアは立ち上がる。フランドールの手を取り、共に立ち上がる。
そして、天を仰いだ。
大きな月が、そして、数多の星々が彩る夜天。
「もう地の底に居る必要はないわ。この空の下、共に笑い、共に泣き――生きましょう」
「……うん……うん!」
みたび、温もりがフランドールを包む。
その温もりはこれから、いつまでも、いつまでも、彼女を包む……
かつては日出ずる国、黄金の国などとと呼ばれ、神秘のヴェールに包まれていた東国。その国の山中には幻想郷と呼ばれる不可思議な地が存在した。そして、その幻想郷には参拝する者のいない神社が存在する。
常であれば閑散としている、その神の社。しかし、今現在その地は常に非ざる状態であった。
「こら! フラン! そのクッキーは私のよ! 返しなさい!」
「やだ! だってお姉様、わたしより一枚多く食べてるもん!」
「当然でしょう! 私の方が年長なのだから! 何より、咲夜の作るクッキーは私の大好物なのよ!」
社務所内に始まり、拝殿、本殿と飛び回る幼女が二名。更に、
「お嬢様ー! 妹様ー! 喧嘩なさらないで下さい! クッキーでしたらまた作りますから!」
二名を追いかけるメイド。
「むにゃむにゃ。咲夜さーん。これ以上お給料減らされたら、私死んじゃいますよー」
昼寝をする元門番。
「これはこっちかしら?」
「いえ。こっちじゃないですか?」
散り散りになっている紙片から書物を復元させようと頑張っている魔女と低級悪魔。
そして、それに止まらず、
「霊夢ー。遊びに来たよー」
闇を纏い、金髪の少女が、
「今度こそあたいが勝あぁあつっ!」
冷気を纏い、青髪の少女がやってきた。
博麗神社は参拝者はいないままではあるが、非常に賑やかであった。
そして、その光景を目にし、神社の巫女である博麗霊夢は深く息を吐き出す。
「……紅魔館が修繕中なんだから仕方ないとはいえ、何で全員ここに来るのよ。今日に至っては、関係ない奴らまで来るし」
「まあ、いいじゃん。楽しくて」
博麗神社の珍しい光景を霊夢の横で共に眺めていた魔女――霧雨魔理沙が言う。
「そう言って無理に納得していた時期が私にもアリマシタ」
霊夢が遠い目をして言うと、ははは、と魔理沙は渇いた笑いを上げる。そうしてから、彼女は手元に置いていたコップが空になってしまっていることに気付く。それゆえ――
「あ。もう麦茶ねぇや。霊夢。くれ」
「あ、いーなー。私もー」
「麦茶って何?」
「悪いけど私も頼むわ」
「あ。よろしければわたしもお願いします」
「むにゃむにゃ」
「咲夜。私とフランにも紅茶よ」
「わたしのにはミルクもいれてね」
「畏まりました。というわけで霊夢。お湯を沸かしなさい」
ぶちっ。
何かが切れる音が聞こえた。
「あんたらちょっとは遠慮しろおおおぉおぉおぉおおぉお!」
幻想郷は今日も平和である。