注意!
この先にある文章は東方紅魔郷を基礎においた小説ではありますが、
管理人であるmakerSatの能力の限界によりゲームがクリアできないため、
EDが本家に忠実ではありません。
レミリア嬢が霧を発生させた理由に関して捏造しております。
加えて、紅魔郷であるにもかかわらず『神槍スピア・ザ・グングニル』をレミリアが放ちます。
(要するに独自路線を突っ走っているのです)
それでもいいという方だけ先へお進み下さい。
そんなことは認めないという方は、申し訳ありませんが
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東方紅魔郷 FINAL STAGE : エリュシオンに血の雨
窓より差し込む紅い光。その異様さに気を取られることもなく、霊夢は屋敷の廊下を駆ける。向う先には数多の妖怪が立ちはだかるが、その悉くを沈め、駆け続ける。
その快進撃に、妖怪達は慄き道をあけた。
しかし、霊夢はその妖怪達すら打ちのめし、無機質な表情で駆け続ける。そして、妖怪達の姿が殆ど見受けられなくなった頃、立ち止まり、一枚の扉に瞳を向けて口を開いた。
「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない? そこの部屋にいるんでしょう?」
きぃ……
その言葉に呼応して、扉が開く。姿を見せたのは霊夢の胸部辺りまでの背をした幼女。青い髪と色素の薄い肌、そして何より紅い瞳が特徴的だ。
幼女は切れ長の瞳を霊夢に向け、酷薄な笑みを浮かべた。
「騒々しいと思ったら、見慣れない輩が居るわね。それに、うちのメイドがそこら中に倒れてるし…… あなた、大量殺人犯ね」
「人じゃないから大丈夫よ。それに、殺してないし」
「それにしても、部屋に逃げ込もうとした子達を後ろから……っていう風な惨状があそこに見えるけど? 残酷な紅白ね」
幼女の視線の先には、部屋の入り口で折り重なってうつぶせに倒れている妖怪が数匹いた。確かに、彼女が予想したような状況であったことが窺える。
霊夢はその予想に対して表情を変えることもなく、言の葉を紡ぐ。
「部屋で私をやり過して、それで救援を呼びに行かれても面倒だからね。あの妖怪どもの会話の中に『メイド長』なんてのも出てたし、そいつが別格の実力者なのは予想できたわ。なら、そいつの参入を予め防いでおこうと思うのは自然ではない?」
幼女が笑った。
「くすくす。臆病者ね。流石、脆弱な人間であるだけはあるわ」
「慎重だと言って欲しいわね。それで? 貴女は……何?」
「私? 私は――日光に弱い悪魔よ」
その言葉を耳にした霊夢の頬を、一筋の汗が流れ落ちる。しかし、彼女は動揺を表情に出さず、幼女を見据える。
「そう。で? その悪魔さん――レミィだったかしら? レミィお嬢ちゃんは何故霧を生み出すのかしら?」
「あら、その呼び方……パチェに会ったのね。成る程、パチェならこの霧の原因が私と当たりをつけててもおかしくはないか…… まあ、そんなことはいいわね。それより、私はレミリア・スカーレット。レミリア様とでも呼びなさい。レミィと呼ぶのはもっと親しくなったあとよ。それで? 人間、貴女の名は?」
心もち機嫌良さそうに言葉を繰るレミリア。しかし、その立ち居振る舞いには油断できない雰囲気があった。
霊夢は警戒しながら口を開く。
「博麗霊夢よ。時にレミリア。私の用件は……判ってるわね?」
「まあ、この状況で、貴女の用事が化粧品の押し売りだとは誰も思わないわよ。まず間違いなく霧、でしょう? とはいえ――」
悪魔の纏う空気が変わる。霊夢は、全身の毛が逆立つような感覚をおぼえた。そして、大きく跳び退り、彼女から離れる。
レミリアはそんな彼女に笑みを向け、一歩踏み出した。廊下に歩み出た。
「貴女の願いを叶える気などないわ。この霧は――必要なのだから」
そう呟いて、レミリアは窓の外に瞳を向ける。そこには、紅い、本当に紅い大きな月が浮かんでいた。それが発する紅い光に包まれた空をやはり紅で彩るのは、細かな粒子。
その光景に悪魔は怪しく笑む。そして、徐に口を開いた。
「さて……霊夢だったわね? こんなに月も紅いから本気で殺すわよ」
背中に冷たいものを感じ、霊夢は御札と陰陽玉を急ぎ用意し、構える。そして、瞳を細めて言葉を搾り出す。
「こんなに月も紅いのに――」
「楽しい夜になりそうね」
「永い夜になりそうね」
まず動いたのは霊夢だった。手にしていた御札を数枚レミリアに向けて放つ。そして手を組み、祈りを捧げる。
「夢符、封魔陣っ!」
月明かりに照らされた廊下が更に強い光で彩られる。そして、その光がレミリアに集中していく。
しかし、悪魔は腕の一振りでその光を払った。
「これが全力? せっかくなのだから、もう少し遊ばせなさい。ねぇ、人間」
「くっ!」
怪しく光る悪魔の瞳を目にし、霊夢は呻いて後退する。
レミリアは口もとを歪め、腕を持ち上げる。
「じゃあ、まずは小手調べということで……」
そう呟き、レミリアは光弾を打ち出す。大小様々な光弾が打ち出された。そして――
どおおぉぉおぉおぉおんっ!!
廊下が崩壊した。霊夢は外へと吹き飛ばされるが、意識を集中して中空に浮かぶ。
ふわっ……
「あら。人間のくせに飛べるのね。翼もないのに」
「その程度の取り柄しか御座いませんがね…… しっかし、自分の屋敷を躊躇なく壊すとか、滅茶苦茶ね、貴女」
「うふふ。それは有り難う。さて、行くわよ」
にこりと笑った悪魔の顔は、幼子のそれと変わらない。しかし、彼女を取り巻く空気はまさしく悪魔のそれだった。
「天罰、スターオブダビデ」
巨大な光弾が十数個打ち出される。それに続いて一回り小さな光弾が数十個打ち出され、また、それと同時に光線が四方に伸びた。それら全てが複雑に入り組み、霊夢の退避を妨げる。
彼女はその合間を何とか縫いつつ、御札を数枚打ち出すが……
「もう少し威力のある攻撃はないのかしら? 興醒めだわ」
特に防ぐでもなく御札を受け、平然としているレミリア。彼女は詰まらなそうに呟いた。
そして――
「じゃあ、また私の番ね」
「くっ!」
霊夢に向けて大中小様々な光弾が押し寄せる。いずれも物凄い速度を有しており、霊夢は避けることに集中するしかなかった。そして、その攻撃が止むと……
「防戦一方では疲弊していくだけよ…… 冥符、虹色の冥界」
悪魔の言葉に呼応して鋭い形状の弾が放たれる。様々な方面から弾が霊夢を襲い、彼女は再び防戦を余儀なくされる。それでも、無理に陰陽玉を操って攻撃を試みたり、御札を数枚打ち出したりするが、やはりそのどれもレミリアには効かなかった。
続けて、レミリアが右手を霊夢に向けて構える。そうして、更に力を解放しようとした、その時――
「お嬢様! ご無事ですか!」
「あら、咲夜。貴女にしては遅かったわね」
咲夜と呼ばれる少女が崩壊している廊下に佇み、霊夢を睨みつけていた。咲夜はナイフを構え、瞬時に数十本のそれを打ち出す。
しかし――
「呪詛、ブラド・シェペシュの呪い」
レミリアが呟くと、咲夜が打ち出したナイフの数本が突然軌道を変え、他のナイフを打ち落とす。そして、それにより打ち落とすに至らなかったものは、レミリア自身が光弾を打ち出して落とした。すっかり全てのナイフが落とされ、そして、レミリアの瞳が鋭さを増す。
「咲夜…… 手出しは無用よ」
「し、しかしお嬢さ――」
「手出しは無用、と言ったのよ」
「……はい」
静かな声で、鋭い瞳を携えたレミリアが言った。見る者全てを凍りつかせる、恐ろしい空気を纏っていた。
しかし、咲夜が諾と従ったのは恐怖したためではない。レミリアの瞳から、真剣さを受け止めたから。この戦いにかける願いを見止めたからだった。
数日前のこと、咲夜はレミリアに呼ばれ、彼女の部屋を訪れた。
「お呼びですか、お嬢様」
「……咲夜。あの子に食事を持っていって『破壊』されたメイドはどれほどになるかしら?」
訊かれた咲夜は俯き、重い心で言葉を紡ぐ。
「私が知る限りで三十二名です」
彼女が赴任する前もいれれば、更に数が増えることは間違いない。かく言う咲夜自身も、危うく『破壊』されかけたことがあった。
「そう…… いい加減、覚悟を決める頃合いなのかもね……」
呟き、レミリアは髪をかきあげる。そして、独白を始めた。
「あの子は、生まれもってあんな能力を得てしまったがため、運命を違えた。目の前に在った全てを破壊し、そのことで重圧に押しつぶされ、更には精神を病んだ。全ての元凶はあの能力…… いえ、それは少し違うわね。私にも責任がある。運命を操るこの手が、彼女の『破壊』を無理に捻じ曲げようとしたために、彼女の精神に障ってしまった可能性は高い。能力だけを消し去るなどできるはずはないのに…… 咲夜、貴女が人に忌み嫌われた因たる能力を捨てられぬように」
「……はい」
咲夜は俯き、応えた。
一方で、レミリアは窓の外に視線を向け、瞳を細める。
「いつまでも私が彼女の『破壊』の運命を操っているわけにもいかない。彼女の精神の病みようは著しい。もう限界…… 彼女の『破壊』を止めるならば、彼女を殺すしかない」
より一層瞳を細め、そう口にするレミリア。
咲夜には、彼女の表情から悲哀の感情しか見出せなかった。それゆえ、主に意見する大罪を犯す。
「しかし! お嬢様はそれで宜しいのですか! 妹様を……フランドール様を、などと――」
レミリアが窓辺から離れ、咲夜に歩み寄る。そして、視線を上げて彼女を見詰める。
「私は紅魔館の主。自分の身内だけを見ている訳にはいかない。貴女や他の者達を、全てを守らねばならない」
そう言い切る主の顔を目にし、咲夜は唇を強く噛み締める。そして、最後の抵抗を試みる。
「その全てに……妹様もまた含まれるのではないのですか……」
主は軽く微笑み、しかし、前言を撤回することはない。
「……私の力の一部を紅い霧として別離したわ。これを幻想郷の方々に撒きなさい。霧は数日で増殖し幻想郷を満たす。幻想郷がその霧で満たされれば、彼女の『破壊』の運命を妨げ、全てを終わらせるだけの力が手に入る。『破壊』に負けず、彼女を殺せる」
宣言した幼女の瞳は乾いていたけれど……
「現世から隔離され妖が集うこの地、あたかも死出の国であるこのエリュシオンの地に、彼女の最期を飾る血の雨を降らすこととなるでしょう」
それでもやはり……
咲夜は思う。
――降る雨は貴女の瞳を濡らすのではありませんか?
「ねぇ、咲夜?」
「は、はい!」
主からの突然の呼びかけに驚き、咲夜は大きな声を出す。
そんな彼女を瞳に映し、レミリアは寸の間きょとんとする。そうしてから、含み笑いをする。
「くすくす。どうかしたの? 貴女らしくもない」
「い、いえ。申し訳ありません」
「いいけれど。それより、私の最後のあがき――というより、妄想ね。聞いてくれる?」
微笑みかけられ、咲夜はやはり微笑んだ。優しく、哀しく、微笑んだ。
「何でしょう? お嬢様」
訊かれた小さき者は、泣き笑いの表情を浮かべ、口を開く。
「あの子の『破壊』に耐えて遊んでくれる、そんな友達がいればよかったのにね」
「紅符、スカーレットシュート!」
レミリアが叫ぶと、霊夢に向けて巨大な光弾が向い来る。そして更に、細かい光弾が不規則に方々を襲う。
霊夢は細かく飛び回ってそれらを避け、あるいは御札をぶつけることで相殺する。そして、隙をみて御札を数十枚打ち出し――
「夢符、封魔陣!!」
再び光がレミリアに向う。
レミリアはそれを手をかざして相殺しようとし、
「ぐっ! 先よりも威力が高い…… 御札の枚数に比例するといったところかしら? けど……」
彼女が右の手を強く握ると、光は霧散した。
「まだまだ足りない……っ!」
「くそっ!」
霊夢が動く。
レミリアはそれを目で追いつつ、再び力を放つ。
「レッドマジック!!」
特大の光弾が四方に放たれる。光弾は特定の空間内を反射して回り、霊夢を襲う。細かい光弾もまた放たれ、霊夢とレミリアの存在する空間は光の弾で満たされていった。
霊夢は苦しみながらもその攻勢を全て避け、そして、二名はもはや何度目になるか判らない睨み合いを始める。
まずレミリアが口を開いた。
「避けるのはお得意のようね、人間。けれど、それだけでは決して勝てない。運命は変えられない!」
突然声を荒げたレミリアを目にし、霊夢は瞠目した。しかし、直ぐに軽く笑んで言葉を紡ぐ。
「……あら。こう見えて、結構攻撃的なのよ、私。それに、運命くらいぱぱっと変えてみせるわ。人が生きるってのは――そういうことでしょう?」
真摯な瞳を携えた霊夢が言い切る。
その言葉にレミリアはしばし呆け、そして笑う。高く高く、紅き月まで響くように高く笑った。
そして、キッと霊夢を睨みつけ、口もとを歪めて叫ぶ。
「よく言ったわ、霊夢! ならばその言葉を証明なさい! 運命を変えてみせなさい!!」
急速に、レミリアに向けて力が集中する。紅の霧が集う。
そして、彼女の手の中に一振りの槍のような影が生まれた。その影はどんどん肥大して行き、そして、数十メートルの長さを誇る紅き神槍が創造された。
「さあ! 貴女の最高の攻撃を用意するのよ! そして、それで私のこれを破れるというのなら、私は貴女の言葉を認める! この霧を――願いを私は捨てる!!」
その叫びこそ願いだと、気付いたのは従者のみ。主は心の叫びを表出させながらも、未だ破壊の消失を望むと思い込む。
一方で、侵入者は一切の事情を知ることなく、苦笑いを浮かべて悪魔の手に納まるモノを見やる。
「……それを破れってのも無茶な注文だけど、ここまで来たらやるしかない、か。なら、ちょっと待っていなさい。人間の底力、見せてあげるわ!」
霊夢が集中を始める。それから数十秒の時が流れた。その数十秒は、全ての者にとって長すぎる時であった。
時が――満ちる。
「準備はいいようね…… いくわよ?」
レミリアの問いかけに霊夢が頷く。
そして――
「神槍、スピア・ザ・グングニルッッ!!」
「霊符、夢想封印っっ!!」
力が――強い力がぶつかり合う。
神さえも貫く運命の槍。
全ての夢を封す意思の光。
互いが譲らず、天を彩る。そして――
「……っ! 少し、押され気味、ね! たくっ! 情けない!」
「……その程度? 運命なぞ簡単に変えられる、この私の力なぞ退けられるのではないのかっ!」
苦々しい表情を浮かべた霊夢に、レミリアがやはり苦々しい表情を向けて叫ぶ。噛みしめた唇からは血が滴っていた。
「お嬢様……」
咲夜が瞳を細め、呟く。
その間も、槍は光を侵食していた。このままでは、あらゆる願いが失われる未来を迎えることだろう。そして、その未来が愈々訪れようとした、その時――
「恋符!」
突然響いた叫びに、咲夜が視線を巡らす。
すると、彼女からそう遠くない中空に、箒にまたがる魔女がいた。
その魔女は包帯だらけの体ながらも不敵に笑い、そして、右の手をレミリアに向けて突き出す。
「マスタースパークっっ!!」
光が光と合流する。
光が紅き槍を押し返す。運命を退ける。
そして――
「まあ、二人纏まれば合格点出してもいいわよ。霊夢と、そっちは白黒?」
「霧雨魔理沙だぜ」
「あっそ。魔理沙ね。というわけで、今回はおまけして、貴女達二人で頑張ったで賞ってことで霧を引っ込めてあげる。ただし、今後によってはまた霧が発生するからそのつもりで」
椅子に踏ん反り返ったレミリアの言葉に、霊夢、魔理沙共に頬を膨らませる。
「おいおい。その度にあんたと戦えってか?」
「そんな面倒なことは御免よ」
そのように抗議した。
しかし、レミリアはそんな彼女達を冷笑と共に見詰め、更に言葉を継ぐ。
「安心なさい。再び霧が発生する場合、どうせ貴女達は破壊されたあとよ」
『は?』
訝しげに問い返す紅白と白黒。しかし、悪魔は意に介さず自分のペースを崩さない。
「何にしても霧は引っ込めるわ。それでいいでしょう?」
口もとを歪めたレミリアがそう提案すると、霊夢、魔理沙は釈然としないながらも頷く。そして、
「そういうことならもう用はないし…… 帰ろっか、魔理沙」
「んーそだなー。あ、その前にパチュリーんとこ寄ってこうぜ。本持ってかねーと」
「それ言ったら、私も人里で霧発生事件解決をアピールしないとね。うふふー、お賽銭がっぽりー」
機嫌良さそうに言う霊夢。
魔理沙は何の本を借りようか考える一方で、そんな霊夢に軽い疑問を投げかける。
「ところで、どうやって事件解決したのがお前だって判らせんだ?」
「え?」
時が止まった。
幻想郷の一角で月に照らされた瀟洒な館――紅魔館の一室。その館の主たるレミリア・スカーレットの居室には、当のレミリアとその従者たる咲夜がいた。
レミリアは窓辺に佇み月を仰ぐ。そして、咲夜は出入り口付近に控えていた。
主は瞳を細めて優しい光を享受し、呟く。
「ねぇ、咲夜。彼女達は、あの子の運命を変えてくれるかしら。私のように無理に捻じ曲げるのではなく、全てを受け入れ、正してくれるのかしら。あの子の――友達たり得るかしら?」
従者は微笑み、応える。
「ええ。実力は少し心もとないとはいえ、性格的には間違いなく」
主はその応えに快活に笑い、そして、微笑んだ。
To be Continued.....