以上が昨日――夏休みが明けた二学期の初日に起こったことである。
そして今日、朝のニュースを飯を食いながら見ていると、青林府八沢市にて銃刀法違反で三十代前半のオッサン三人組が捕まったと報じられていた。頬につーっと線を入れて表現する、『や』で始まる商売の方々だったらしい。さて、その方々はどう見ても見覚えがあったが……あまり気にしないことにした。
食い終わった食器を重ね、流しに持っていく。それから歯を磨き、顔を洗い、用を済ませ、部屋に戻った。そして、学校の制服に着替え終えた頃、呼び鈴が鳴った。
「はいはい」
母さんがパタパタと足音をたてながら玄関先に向ったようだ。そんな生活音を耳にしながら、俺は暇潰しアイテムの選別作業に入る。
さて、今日はどんなものを持って行こうか。俺の鞄はそのアイテムを運ぶためにあるのだ。
本棚を物色する。漫画は数がないため何度も読んでいて飽きた。小説など持ってもいない。やはりグラビア雑誌か。最近買ったものはこのところ穴が開くほど見ているため飽きてきたが、去年買ったものを見直すのは悪くないかもしれない。よし。そうしよう。
「泰司ー!」
母さんに呼ばれた。何だ?
「何だよ?」
「お友達が迎えに来てるわよー!」
友達? 太郎か? あいつ、たまに来るし。
俺は部屋を出て玄関に向いながら更に訊く。
「誰?」
「鵬塚さんって子! お兄さんも一緒よ!」
……は?
ドタドタドタっ!
「ちょ、お前ら、何で俺んち知ってんだよ」
「何でって、富安くん。僕が誰か忘れたのかね?」
なるほど。総理大臣殿でしたね。調べようと思えば調べられるか。
マゴマゴ。
ん? 鵬塚が何やら言いたそうにしているな。
「どうした?」
びくっ!
声をかけるとやはりびくつき、それから数秒溜めて口を開いた。
「……は……よ……」
本日最初の鵬塚語翻訳作業。今のは、おはよう、だな。
「おう。おはよう」
コクコク!
ただ挨拶を返しただけだったが、鵬塚は随分と嬉しそうに力強く頷いた。まったく、コミュニケーションに飢えている奴だ。
「何よ、泰司。いつの間に彼女なんて出来たの? しかも凄い可愛い子だし。更に言うなら、お兄さんも凄い美形だし」
ミーハーな母親め。お前の関心は寧ろ鵬塚兄に向いているのはお見通しだ。
「あ。彼女ではありませんから」
と、そこはきっちり否定する鵬塚兄。さすがシスコンだな。
そして、当のシスコンは更に言葉を続けようと口を開き、
「親友です」
そう言って鵬塚と俺の肩に手を置く。
コクコク。
鵬塚も相変わらずのジェスチャーで肯定する。
「って、ちょっと待て。いつの間に親友に――」
「ああ、富安くん。そろそろ出立しないと遅れてしまうのではないかい?」
そんなことでお茶を濁そうとしても……って、確かに時間的にやばいな。仕方ない。
俺は部屋まで駆け足で戻って鞄を手に取る。そして、玄関まで戻り、
「行って来ます!」
飛び出した。
鵬塚も俺のあとを追って走り出す。
そして鵬塚兄はというと……
「せっかくですからお茶でもいかがですか」
「それでは頂いていきます」
ちゃっかり家に入り込んで行った。
どんだけ暇なんだよ、総理大臣とやらは!