学校の正門を抜けて玄関へ向う。建物に入れば直射日光を浴びずに済み、それはありがたい。しかし、それだけである。直接受ける日差しがないというだけで、夏の殺人的な気温は俺達に襲い掛かる。この学校はもう少し環境保護に無関心であってもいいのでないかと思う。……早い話、クーラーくらいつけてくれ。
汗ばみながら廊下を歩き、俺と太郎、その他諸々は教室を目指す。俺が所属する二年七組の教室は西棟の三階にある。
八沢高等学校の校舎は北棟、南棟、東棟、そして西棟の四棟に分かれている。玄関は南棟にあり、そこの階上には職員室や図書室、音楽室などの特別教室が存在する。その南棟からは北棟、東棟、西棟のそれぞれに渡り廊下が伸びていて、一年生は東棟、二年生は西棟、三年生は北棟へと向うことになる。また、それぞれの棟からそれぞれの棟への行き来も可能で、北から南へ向いそれから東へ、などというまどろっこしい経路をとる必要はない。
もっとも、部活に所属していない俺としては、他学年が跋扈する棟に足を踏み入れる必要性など皆無であるが……
「おーっす。久し振り」
「おう」
「おっはよう」
「おはようさん」
教室に足を踏み入れると久方ぶりに会う奴らが声をかけてきた。俺は適当に返答しつつ自分の机――授業中やホームルーム中に教師が鎮座する教壇の目の前に存在する机に向う。……正直、ここまで最悪な席もないだろう。おちおち居眠りもできやしない。
とはいえ、今日ばかりはそうとも言えない。この教室で空席があるのは、俺の隣だけなのである。それの意味するところはつまり、めちゃくちゃ可愛いというくだんの転校生が、俺の直ぐそばに座る可能性がかなり高いということだ。これは新学期早々ついているとしか言い様がない。素晴らしき哉、人生。
がらっ。
「おはよう。お前ら、廊下並べー。体育館で始業式だ」
と、教室の扉を開けるなり言ったのは担任の木村熊夫だ。熊夫という名前とは対照的に薄い体型をしており、顔つきは優しい。あだ名はキムティーとか熊ちゃん。俺はキムティーと呼んでいる。
「熊ちゃん。転校生は?」
女子の一人が訊いた。
七組一同の視線がキムティーに集まる。
「耳が早いな、お前ら」
キムティーは瞠目し、それから笑う。
「けど、残念ながら紹介はあとだ。先ほど、ご家族から遅れると連絡があった。初日から遅刻とは、豪気な転校生だな」
教室の方々で残念がる声が上がる。本日の一大イベントはしばらくおあずけのようだ。
にしても始業式か。だりぃ……