「さて、文化部といっても厳しいとこは厳しいぞ。いくつかは即切り捨てなきゃいかん」
そう前振りすると、鵬塚は真剣な様子で、コクコク、と頷く。
「まず吹奏楽部だ。ここは入学したての一年坊主以外は即戦力しか入部を許さないらしい。楽器の経験は?」
フルフル。
よし。吹奏楽部はなし、と。
「お次は漫画研究会だ」
その時、鵬塚の顔がいっそう輝いたように感じた。あいつの部屋に漫画が大量にあったことだし、興味があるのかもしれない。
「ここは自主制作の漫画誌を文化祭と……えーと、こみけとかいうやつで出すらしい。だから、そういうのを描ける、もしくは、技術はなくても描こうという気概のある奴を熱烈歓迎、とのことだ。ちなみに、そうじゃない奴は肩身が狭いそうだ」
鵬塚がしょんぼりと肩を落とす。期待していたのと違ったようだ。
訊くまでもない気はするが、一応訊いてみる。
「漫画は描けるか?」
フルフル。
「描きたいっつー気持ちは?」
フルフル。
まあ、だと思った。とすると、ここもパスしとくべきだろう。ただでさえ社交性を発揮できない奴が、望まれていない場に空気を読まずに突っ込んでいっても、やはり良好な関係は築けんだろう。
「演劇部。ここは来るもの拒まずだが、ノリは運動部に近い。役者は勿論、声を出すことを要求されるし、裏方であっても返事は大きく、元気に、という風潮がある。というわけでパスしよう」
フルフル。
人が親切で言ってやっているというのに、鵬塚は首を左右に振って拒否しやがった。
ったく。うぜえ。
「なら、ここででき得る限り大きな声をだしてみな。それで、俺の鼓膜を破壊せんばかりの音量を出してみせたら、部室まで案内してやるよ」
提案すると、鵬塚はコクコクと頷く。そして深呼吸を始めた。
そして――
「なみゃみゅぎなみゃぎょめなみゃたみゃぎょ」
「噛みすぎだろ」
思わず突っ込む。いやまあ、そこはいいんだがな。別に役者を志望しないならかつぜつ悪くても関係ないし。
それよりも――
期待のこもった瞳でこちらを見る鵬塚。その輝く瞳を曇らすのも気が引けるのだが、仕方がない。
「不合格。つかお前。普段から『大声』で話してくれ。それでちょうどいい」
ついでに皮肉をいうと、珍しく鵬塚に睨まれた。頬を膨らませて、こちらに鋭い瞳を向けてくる。
しかし、まったく迫力がない。正直おもしろいくらいだ。少しだけ鵬塚兄の気持ちがわかる。
とはいえ、鵬塚兄と同じように鵬塚いじめを始めたのでは時間の無駄というやつだ。俺は軽く謝りつつ、先を続ける。
「あとは部員数がそれほど多くないのばっかだが……」
そこまで口にすると、鵬塚は残念そうに瞳を伏せる。
「そこは我慢しろ。つか、部員数が多いからっていいとは限らんだろ。少ないからこそ結束が固くなる場合もある。部員数とか気にせず、興味があることをやれるとこを選んだ方がいいと思うぞ。話だって合うだろうしな」
思いつきでそんなことを言ってみた。
すると、鵬塚は目から鱗が落ちたとでもいうように、こちらに見開いた瞳を向け、手をパチパチと叩いた。単純な奴だ。
「さて、他だが…… えーと、郷土史研究会、パソコン愛好会、ゲーム製作同好会、BL同好会。……BLってなんだろうな」
昨日から今日にかけて部活動を調査していたのだが、その時には浮かばなかった疑問が浮かんだ。BL……BL……ベーコンレタスか? それともブラックリスト?
どうでもいいことではあるが頭を悩ませていると、鵬塚がケータイを取り出して操りだした。
カチカチ。
数秒ほどボタンを押す音が響く。そして――
「……イズ……ブ……かも……」
ボーイズ……ラブ?
どうやらケータイでネットに繋いで調べたらしいが、それによって導き出された解答はよくわからないものだった。俺も鵬塚のケータイの液晶画面をのぞいてみる。
……なるほど。よし。ここはパスだな。
「あ、あとは――魚介類調査部、天文部、宇宙人信仰会、料理研究会、ダイエット部、文芸部……」
こうして羅列してみると意味わからん団体がちらほらあるが、気にしていたらキリがないので流すことにした。俺は順調に部活や同好会を読み上げていった。そして、二分ほどかけてその大半をよみあげ、ようやく最後のひとつを口にする。
「猫を愛でる会」
これで全部だ。
さて、星選者殿の御眼鏡に適うものはあったのかどうか。願わくば、あいつのいるあの部だけは勘弁して欲しいものだ。これを機にまた勧誘が盛んになりかねない。最近大人しくなってきたってのに……
「で。興味をそそられたのはあるか?」
尋ねてみる。
鵬塚は考え込んでいたが、しばらくするとこちらを真っ直ぐと見つめ、口を開いた。
「……げ……ぶ……」
その答えに思わず頭をかかえる。
まったく。こいつは俺を困らせるのが趣味か何かなのか。