第2話『友を欲する者』03

 まず結果を語るとしよう。惨敗だった。
 バスケットボール部、ソフトボール部、女子サッカー部、フットサル部、ハンドボール部などなど。八沢高校には今挙げた以外にも多くの運動部がある。しかし、鵬塚がそれらに受け入れられることはなかった。仮に顧問、生徒共にやる気のない部があるのであれば別だったかもしれないが、残念ながらうちの高校の部活動は熱心すぎて引くくらいに熱心なのだ。
 星選者の特性なのか、鵬塚は意外にも運動神経がいいらしい。
 バスケットボール部ではレギュラー連中とのワンオンワンでことごとく勝ってみせ、ソフトボール部では無茶な位置に飛んできたライナー球を横っ飛びしてキャッチしていた。サッカー部、フットサル部でも見事なドリブルを見せ、ハンドボール部では剛速球でゴールを奪っていた。しかしこの小動物、予想通りに声をまともに出しやがらない。
 運動部、とりわけ団体競技では声の掛け合いが重要であることは明白だ。最大音量で話してようやく、日常生活で聞き取れる程度という社会不適合者が入部を申し出たとして、体育会系人間が集まる団体に受けいれられるはずもないのだ。
 ならばと個人競技の運動部にも顔を出してみた。テニス部でも鵬塚は、コートをえぐらんばかりのサーブを打って見せた。しかし、顧問への返事が例によって、コクコク、フルフルだったことで、相手の機嫌がものすげえ悪くなった。先輩連中もまともに声を出さない鵬塚にいい顔をしない。正直、入部したとて良好な人間関係が築けるとは思えなかった。
 ……一応、入部してもいいという運びになったとはいえ、流石にどうだろうと思い、鵬塚の手を引いてテニスコートをあとにした俺を責められる奴がいるのなら今すぐ名乗り出てみやがれ。お前にKYの称号をやろうじゃないか。
 で、そんな経験をしたものだから、他の個人競技系運動部も無理だろう、と俺は思った。
 運動部ってのは元気一番礼儀至上主義なとこがある――と言い切ってしまったら偏見と非難されるかもしれないが、俺としてはそんな印象がある。そして、これまで見て回った分ではその印象は少なからず正しいようだ。ならば、鵬塚が運動部に入るというのは本当に無理があるとしか思えない。
 早々に諦めるよう説得するのが賢い選択のようだと、ようやく俺も気づいたわけだ。
「なあ。大人しく文化部にしようぜ」
 フルフル。
 そこで頑固に首を振るう鵬塚。そしてひと言。
「……と……おい……が……もだ……で……かも……」
 ……おい。それが理由なのか。
 俺は疲れを覚えて、事前に調べておいた情報をメモした紙を取り出す。
「吹奏楽部、部員数八十三名。漫画研究会、部員数三十二名。演劇部、五十八名。この通り、文化部も部員数が多いのはそれなりにあるぞ」
 重要な情報を開示してやると、鵬塚は驚いたように瞳を大きく見開いた。そして――
「というわけで、文化部でもいいな?」
 コクコク。
 素直に頷いた。
 さて、先の鵬塚の主張を翻訳してみよう。あのときこいつはこう言ったのだ。
 ――人多い方が友達できるかも
 ……はあ。まあ確かに、運動部の方が比較的人は多いけどな。

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