wiztlm 04

 閑静な田舎の村がにわかに騒がしくなる。先ほどの竜来襲を報せる叫びが、小さな村に伝播していったのだろう。
 村人と一部の傭兵達が逃げ惑う中、私達は竜が現れた方向へ向かって――いなかった。
「ジュネス! 竜が出たというのに何をしているんだ!?」
「別に待ってりゃ向こうから来んだろ。わざわざ体力使って向かう必要もねぇさ」
 もっともらしく……聞こえた。確かに体力は温存しておいた方がいい。
 ……しかし、いいのだろうか。
 先述した通り逃げ惑っている腰抜けの傭兵もいるが、勇敢に竜を目指して駆け出した者もいる。彼らと協力した方がいいようにも感じるが……
 傭兵達に目を向けてそのようなことを考えていると、ジュネスもまた彼らを見た。そして――
「あぁ。それに、あいつらが捨てゴマになりゃあ、ちっとは楽になるかもしれねぇしな」
「なっ! 君! それはいくらなんでも――」
「はいはーい。ちょおっと落ち着こうね」
 私がジュネスにくってかかろうとした時、イーヴェラさんが間に割って入った。そして、私に笑顔を向ける。
「あのね。よく考えてみて。全員がいま竜に向かったら、もしもの時に誰が村の人を守るのかなぁ?」
 ……ああ、なるほど。それは確かにそうだ。
 しかしまあ――
「はっはっはっ! 相も変わらず発言が素直じゃねぇな、ガリオン!」
 ギリュウ殿の言う通りだな。
「……………けっ」

「お。おでましか」
 あれから数分。混乱している村人や傭兵を一ヶ所に集め終えた頃、巨体が空を翔けてやってきた。
 黄土色の鱗が陽の光に照らされている。かつて目にした悪魔の色が……
「さて。ババァ」
「場合が場合だし、文句は控えてあげるわ。何?」
「まずはお前が守りを頼む。カリムと村の連中は任せた」
「はいよ」
 親指を立て、イーヴェラさんは笑みを浮かべた。その後、ギリュウ殿へ視線を向ける。
「ギリュウ。あんたはジュネスの攻撃を補助なさい。ただし、古代竜が相手なのだから無理は禁物よ。あんたの攻撃は一切効かないと思っておきなさい」
「了解です」
 ギリュウ殿は胸を力強く叩き、応えた。ジュネスも指をコキコキ鳴らし、古代竜を睨んでいる。
 そして数秒ののち――
「よし! 行くぜ、犬!」
「応っ!」
 駆け出した。

「はあぁあっ!」
 まず、ギリュウ殿が気合と共に地面を殴った。するとそれにともない、古代竜の真下の地面が盛り上がり、巨体を襲った。
 直撃……したように見える。
「やっ……た……?」
「いいえ。あの程度ではそもそも鱗で弾かれる。あれは目眩ましよ」
 素人目にはじゅうぶん強力そうに見えた。それが目眩ましだなんて……
「R Dzmg Tlw'h Sznnvi…… Ortsgvmrmt!」
 ずがああぁああぁあっ!
 私が古代竜の頑強さに絶望している中、光が空間を駆け抜けた。ジュネスが放った雷の魔法だ。
 いま私達がいる村を包み込みそうなほど大きな雷が、竜がいると思しき中空を染めた。
 ギリュウ殿の攻撃がたてた土埃のおかげで定かではないが、こちらも直撃したようだ。しかし、先ほどの例もあるため素直に喜んでいいものかどうか。
「……あの攻撃も鱗に弾かれるのでしょうか?」
 イーヴェラさんに尋ねてみた。
「んん…… 流石にアレは効くかな。ジュネスの火力はとんでもないしね」
 そうなのか! なら――
「まあそれも――」
 ん? あの……影は……?
 ――なっ!?
「当たればの話なんだけどね」
 土埃が晴れるとそこには、ギラギラとした瞳を有す生き物がいた。その鱗には傷ひとつついていない。
「よ……避けたのか?」
 私の呟きを耳にし、イーヴェラさんは小さく首を振った。
「いいえ。避けたわけじゃない。防いだのよ」
「し、しかし、先ほど――」
「鱗で防いだんじゃないわ。古代竜は――」
 グアアァアァアアァアっっ!!
 その時、竜がいなないた。そして――
 ぶわあぁぁあ!
 炎がジュネスやギリュウ殿、更には私達を襲った。
「Zmgr Uiznv!」
 しかし間一髪、イーヴェラさんが守りの魔法で防いでくれた。
 炎は四散し、消え去った。
 ……それはいい。喜ばしい結果だ。それよりも――
「イーヴェラさん。私の勘違いかもしれないのですが……先ほど竜は炎を――吐きませんでしたよね」
 私の問いに、彼女はコクりと頷く。
「そうよ。今の攻撃も、さっきの雷無効化も、特殊な力によるもの」
 やはり、か……
「古代竜は――魔法を使えるのよ」

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