マウスとキーボードとディスプレイ

「もういやだーっ!」
 マウス君が突然叫んだ。
「どうしたの? マウス君」
「もうポチポチポチポチ押されるの嫌!」
 ぷいっとそっぽを向くマウス君。
 仕草が可愛い、とか考えてる場合じゃないか。
「そう言われても…… 君、そういう役目の子だし」
「でも嫌!」
 叫んで、マウス君はこちらをキッと睨む。
 そして、すうぅうっと息を深く吸い込んで――
「乳首あてゲームじゃあるまいし!」
「何その例え!?」
 がたっ。
 驚愕に僕が叫んだその時、机の上で物音がなった。
「もういやじゃーいっ!」
 叫んだのは、古株のキーボード翁だ。
「……キーボード翁?」
「かちかちかちかち、押されるのに飽きたんじゃー!」
 キーボード翁…… 君の存在意義が損なわれるよ、その発言。
 はぁ。
 思わずため息をつき、翁のこともなだめる。
「そんなこと言ったって仕方ないでしょ?」
「飽きたもんは飽きたんじゃー! 嫌じゃ、もう嫌じゃ!」
 はあぁあ。
 先ほどよりも深いため息が出た。駄々をこねる老人ほど厄介なものもない。
 まったく……
 どうしたものかと思案にくれる僕を、翁もまたキッと睨みつけてきた。
「乳首あてゲームじゃないのじゃぞ!」
「流行ってるの!? ねぇ、それ流行ってるの!?」
 まさか2連続でそんな発言を聞くとは思わなかった。
 と、そこで――
「もう嫌なのよー!」
 みたび、声が上がった。今度はディスプレイちゃんだ。
 彼女はこの部屋での紅一点である。
「君は――」
 どうしたの、と続けようとした僕の言葉を、彼女はかな切り声を上げてさえぎった。
「乳首あてゲームじゃないんだからねっ!」
「無理あるよねっ!? 君のこと、僕押してないよねっ!?」
 ディスプレイの電源は、僕は落とさない派だ。とんだ言いがかりである。
 その後、三者三様に乳首あてゲーム乳首あてゲーム、と騒ぎ立てるマウス君とキーボード翁とディスプレイちゃん。
 ……僕の部屋では、乳首あてゲームがブームらしい。意味が分からないよ。

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