番外編 彼らの日常
鬼は外に出るのか?

 2月3日――節分の日に柚紀は、スーパーマーケットに立ち寄った。そして、炒った大豆が大々的に売り出されている光景を目にする。
「そっか。今日は節分か」
 そう呟いてから思い出すのは、家でゴロゴロしている双子の兄妹のこと。つい忘れてしまいがちだが、彼らは鬼なのだ。
 ならば、今日という日を鑑みれば、柚紀が採る行動は……
 がさ。
「たまには仕返ししなくちゃね」

「ただいま」
『おかえりー』
 トテトテと玄関先に出てきた双子が、声を揃えて言った。
 柚紀はそんな二人を意味ありげに見返し――
 がさがさ。
 鞄から大豆をとりだした。
 双子――阿鬼都と鬼沙羅は神妙な顔つきで沈黙し、それからおもむろに口を開いた。
『……じ』
「じ?」
『児童虐待っ!』
 数十メートル先まで届きそうな叫び声だった。
「ちょっ! ご近所に誤解されそうなこと――」
「殺されるーっ!」
「いやあーっっ!」
 柚紀が土下座して謝る頃には、ご近所の視線が数週間ほど冷たくなることは間違いない状況になっていた。
「はぁ」

 ぽりぽり。
「食べるのは平気なのね」
 大豆を黙々と食べる阿鬼都と鬼沙羅を目にし、柚紀が呟いた。
 それを耳にし、双子はしばしきょとんとする。それからおかしそうに笑った。
「? どうしたの?」
 柚紀が尋ねる。
 すると、阿鬼都が口を開いた。
「僕ら、豆なんて別に怖くもなんともないよ」
「は?」
「ぶつけられたら痛いけど、それだけだよ」
「そ、それじゃ別に、凄く苦しんだりとか死んだりとか……」
 茫然と呟いた柚紀を目にし、双子の鬼はまばゆい笑みを浮かべる。
『そんなわけないし。変な柚紀』
 ぶちぃ!
 何かの切れた音が響き、それから柚紀がおもむろに立ち上がる。彼女の手には大豆の入った袋が握られている。
「――ッ! 鬼はあぁあ外おぉおっっ!!」
「きゃあー!」
「逃げろー!」
 鬼のごとき形相の人間と、可愛らしい笑顔を浮かべた鬼達の追いかけっこが始まった。

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