厨二病末期患者の症例
29歳で厨二病な児童文学作家の叔父と、14歳でリアリストな中学2年生の姪のお話。

 日本のとある地にある龍ヶ崎の町には、長篠冬流(ながしのとうる)という名の児童文学作家が住んでいた。当年とって29歳の成人なのではあるが、その性質は立派な成人のそれとは言い難い。
 彼と共に住まう者として、彼の兄の娘、長篠夏茄(ながしのかな)がいた。近所の天ヶ原女子中学へ通う中学2年生、14歳である。世間の評判では、叔父たる冬流よりもよっぽどしっかりしているとか。
 この物語はそんな彼らの何気ない日常を描いたものである。

 ニュースキャスターが今夜の流星群について報じた直後、長篠冬流は腰掛けていたソファーからすっと立ち上がった。
 そして、姪御――長篠夏茄に瞳を向ける。
 彼女は、ソファーに体を預けてファッション誌を読んでいた。
「夏茄(かな)!」
 声をかけられると、夏茄はいぶかしげに視線をあげる。
「なぁに? 叔父さん」
「さあ。墜ちた星屑を探す旅が始まるぞ!」
 冬流の腕より放たれ、リビングの床を『星』が転がる。
 ばっ。ころころころころ。
 蟻さんが喜びそうな光景が広がった。
 …………………………………はぁ。
 夏茄は床に散乱した『星』を沈黙と共に見下ろし、嘆息した。
 そして――
「金平糖、ちゃんと片付けてよね。叔父さん」
 そのようにひと言だけ口にし、何事もなかったかのようにファッション誌に意識を戻した。
 冬流は独り寂しく『星屑を探す旅』に出掛けることとなったのだった。

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