拍手小話二:「ゴーレムという巨大な魔物は〜」

 これはアジャス達がアジャスの姉であるミリアと会う前の話。ドムドーラで頼まれた手紙をマイラの運び先に届けた際の会話である。
 ちなみに、マイラまでの道程で疲労が頂点に達している老人は会話に参加していない。しかし、実際は後方で腰を下ろしぐったりしている、ということだけお知らせしておこう。

「ほぉ、メルキドにも言ったことがあるのか?」
 手紙を届けた先でちょっと話し込んでいるうちに、流れでこれまで行ったことのある街について話すこととなったアジャス。街の大きさもさることながら、入り口でのひと騒動が印象的だったメルキドをまず挙げた。
 それに対し、話し相手である男性はとっておきの話をするように声を潜める。
「これは聞いた話だから本当かわからんのだがな」
 そう切り出して笑顔を見せた。そして続ける。
「あの街の入り口を守ってるゴーレムという巨大な魔物は、笛の音が苦手だと聞く」
 それを聞いたアジャスは、入り口を守っていた怪物を思い起こした。ローラもまた同様である。
 彼らを襲ったかの者は、とても笛の音くらいでどうにかなるタマにも思えず、二人揃ってデマなんだろうなぁ、という感想を持った。
 そんな二人の考えなど知るはずもなく、男性は得意げに先を続ける。
「力任せに戦うだけでは倒せない魔物もいるのだ。戦う時には相手の弱点をよく――」
「けど、普通に倒せたよな?」
「そうね」
 男性の言葉を遮って、アジャス、ローラは言った。
 その口調は、本当に何でもないことであるような、今日の夕飯のおかずを話題にしているかのようなものであった。そのため、男性はしばらくその内容を認識できずにいた。
 しかし数秒の後、漸く内容を理解した男性が疑わしげに二人を見る。
「そんな馬鹿な。直接見たことがあるわけではないが、かの街の守護者は固く巨大な体で、城の兵士が総出でも倒せないと聞いたぞ?」
 そこまで話してから、男性は二人の発言が冗談であると判断したようで、半笑いで――
「馬鹿も休み休み言いなさい」
 と言った。
 それに対し、アジャスは適当に笑って流したが、ローラがムキになる。
「何よ! 本当なんだから!」
「だったら、どうやって倒したのか言ってみなよ」
 ローラの言葉にも適当に反応し、笑ったままでそう言う男性。そんな態度に、ローラはますますムキになる。
「このアジャスが剣でゴーレムの足を叩き切って、それで相手がバランスを崩したところでローラがこの拳で顔面を砕いてやったのよ!」
「ぶっ、あははは! お嬢さん、いくらなんでも、もう少しマシな嘘を吐いたらどうだい? そっちのお兄さんが剣で切ったっていうのは百歩譲って信じたとして、君がその細腕で砕いたって――」
 男性がそのように反応した直後、このままではローラがムキになるばかりで永遠に会話が終わらないと判断したアジャスは、足元に転がっていた石ころを拾って、
「ロ…… アルロ!」
 と声をかけながらローラに向けて軽く放った。ちなみにアルロというのはローラの偽名である。一瞬言い間違えそうになったのは、まあご愛嬌だ。
 石ころを投げられたローラは、アジャスの意図を瞬時に理解して拳を振るう。
 そして――
 がっ! ぱらぱら。
 一般男性の拳ほどの大きさであった石ころは、粉々に砕けて男性の足元に転がる。
「……………」
 その様子を見た男性は長い沈黙。そして、
「えっと…… 手紙有難う。それから、さっきの話も信じよう。それじゃ!」
 そう一気にまくし立てて、玄関の扉を閉めた。
 後には得意げなローラと、次に手紙を運ぶ家の住所を確認しているアジャスが残された。