拍手小話四:「あの頃君は若かった――ブロアス編」

 少年は仲間達と共に遊びに行く途中であった。
 彼らのような年の頃によくある、自分たちの限界に挑戦するような無茶な遊び。今回は、街の近郊にあるスライムの巣を冷やかしての度胸試しという予定である。もっとも当の少年にとっては、スライムなど千単位でかかってこようとも一蹴できる雑魚中の雑魚でしかない。しかしそこはそれ、他の仲間のレベルに合わせているのであった。今年で九歳という年の割に、なんとも子供らしくない態度である。
 さて、愈々出発となり、街の出口に足を向ける少年一行。と、そこで――
「にいちゃ、ボクもつれてって〜」
 トテトテという擬音と共に、危なっかしい足取りで近づいてきたのは少年の弟、数ヶ月前に二歳になったばかりのアジャスであった。歩けるようになった記念に買ってもらった真新しい靴が、危なっかしさを更に強調している。
 そんな様子なので、当然誰もアジャスの同行に賛成などしない。それは兄ブロアスも同意見であった。ゆえに、抱きかかえて家まで送り届けようと一歩踏み出した、その時――
「オレらはこれからガキんちょには危険すぎるまきょーに向かうんだ。お前みたいなチビじゃ足手まといだゼ。なぁ?」
 ブロアスの仲間の一人がそのように口を利き、続けて仲間内に同意を求める。ブロアスを除く全員が口々に、そうだそうだと声を上げた。しかし、ブロアスは――
「やっかましぃわあぁあ! おれの弟がお前らごときに後れをとってたまるか、ぼけえぇえ!」
 ついつい暴言を吐いてしまった。そして、
「行くぞ! アジャス!」
「うん!」
 気合と共にアジャスの手を引いて街の外へと赴くブロアス。元気な返事をして手を引かれていくアジャス。兄弟はずんずんと先を急ぐ。
 その他の仲間は、しばしぽかんと呆けていたが直ぐに後を追いかける。
 そして半刻も過ぎた頃、一行はスライムの巣穴へと到着した。
 兄弟を除いた少年達は、お前から行けよ、などと互いをせっつき合っていたが――
「よし行け! マイブラザー!!」
 そのような叫びに驚き、兄弟がいる方向にいっせいに目を向ける。
 するとそこには、兄が弟を巣穴に放り投げているという有り得ない光景が広がっていた。
 少年達の一人が、大いに焦ってブロアスに声をかける。
「ちょー! ブロアス! そりゃ無茶じゃ――」
「うるせえぇえ! おれの弟ならこのくらい朝飯前じゃー!」
 ブロアスはそのように叫んだが、巣穴の中ではどったんばったんと激しい物音。所々でアジャスの叫び声が混ざった。そしてしばらくすると、しんと静まり――
「ちょ、やばくね?」
「いくらなんでもあれじゃ……」
 少年達の間でそのような囁きが交わされだした時、
「うえぇえ! にいちゃ、ひどいよ〜!」
 巣穴の中から涙と鼻水でぼろぼろになったアジャスが這い出してきた。
「どおぉだ! さすがはおれの弟だ!」
 ブロアスは弟の惨憺たる見た目を一切気にせず、胸を張って叫ぶ。そして豪快に笑い出した。
 アジャスはアジャスで愈々盛大に泣き出したため、しばらくは兄弟による騒音被害が著しいものとなった。
 そんな中、少年の一人が意を決して巣穴の中をのぞいてみると、中にいたスライムは全て気を失って倒れていた。この出来事は、後に鬼の兄弟事件と噂されることになる。
 ちなみに、その噂を聞いた兄弟の両親が、元気なことはいいことだ、の一言で片付けたこともまた、彼らの家の伝説の一つである。