25.創られし者達

 この世界は絶望に満ちている。
 それが、この世界に生まれ出て私が最初に思ったこと。その考えは今も変わっていない。
 希望など一時のまやかしに過ぎない。どんなに年月を重ねてもその考えが変わることはないだろう。
 世界は絶望そのものなのだから……

 世界は、ヒトは希望の象徴だと僕は思う。
 生まれ出てまずそう思った僕は、ヒトの間でいうお人好しというやつなのかもしれない。
 そう思えてしまうほどに世界は希望だけでなく絶望も溢れている。
 それでも僕は、希望こそ世界の本質なのだと信じたい。

 私を創り出した者達は常に退屈そうにしていた。絶えず手を動かし作業をしてはいるものの、どこか生きることに対してつまらなそうだった。
 その者達を見ていることに飽きた私は、さらに広い世界を『見る』ことにした。別に難しいことではない。私は魔力として生まれてきたのだ。大気中の魔力と親和すれば世界の隅々まで『見る』ことができる。
 そこで『見た』ものは、やはり絶望ばかりだった。
 貧困からくる差別、弱き者に対する支配、思想の違いからくる争い。
 その合間に見え隠れする希望など、霞んで感じ取ることができないほどに絶望ばかりが押しよせてくるのだ。
 あぁ、生れ落ちたばかりの私は正しかった。世界は絶望に満ちているのだ。

 僕を創ったヒト達は何だか怖い顔をしていた。いつも忙しそうで、それなのにつまらなそうに顔を険しくしていた。
 それでも一人だけ、その人達の中でたぶん一番偉いんだと思うけど、そのヒトだけは違った。
 僕『達』はそのヒトにはナイショで創り出された。というか今も内緒みたいだけど…… ちょっと前にそのヒトはこっそりと僕達に語りかけてきた。
 僕達を生きる者と認識し、君達を『殺す』つもりはないよ、と優しい声で言ってその後も気付いてない振りを続けていた。
 そのヒトを見ているのは楽しかったけど、それでも僕は『あいつ』がやっているように、外に興味を持った。そして『見る』ことを望めば、僕は『見られた』。理屈はわからないけど、確かに世界を『見る』ことができた。
 僕はわくわくした。全てのヒトがキラキラして見えた。
 辛いことも多く『見た』けど、それでもヒトの本質は優しさや喜び、正の感情だと信じていたから。

 ヒトの中に魔族と呼ばれる者達が生まれ、もう一つの『世界』が創り出されてからしばらく経ち、私『達』の元にあるヒトが訪れた。
 見覚えがある。例の魔族の母親だ。
 しばらく前に『見た』絶望。その最中にいてなお、希望を失わず世界を信じているヒト。なんと哀れなヒトだろうと感じた覚えがある。
 私達はそのヒトに連れられ、『あの』世界へ向うこととなった。今まで『見た』ことから察するに、魔なる子を滅ぼしに行くと見える。
 しかし、そのような状況にあって、それでも一片の希望を捨てずにいられるような者の手の内に収まっているなど実に不愉快だ。どちらかと言えば魔なる子の方がまともなヒトだろう。
 彼は世界に、暴力に、差別に絶望していた。世界に光を見出せずにいた。彼は世界が絶望であることを知っている。
 私はガラにもなく『楽しみ』にしていた。魔なる子と相対することを。

 僕はとても嬉しかった。『あの』世界に行くことができる。
 少し前のこと、ある家族を絶望が襲った。その家族のうちの一人、金の髪の少女はとても明るくて強いヒトだった。でも、襲った絶望のせいで彼女の顔からは笑顔が消え、辛い表情のまま『あの』世界へと向ってしまった。
 『この』世界なら、僕は険しい山の上でも深い海の底でも『見る』ことができる。だけど『あの』世界を『見る』ことはどうしてもできないんだ。
 だから僕はこれまでとても気がかりだった。『あの』世界に行った彼女のことが。
 だけどそれも今日で終わりだ。『あの』世界に行ける。それも彼女の母親であるヒトと一緒に。
 きっと大丈夫。彼女は新たな希望を得ているし、明るく強く生きている。
 そう信じて時を待つ。彼女に会える時を。
 希望を強く、強く信じて……

 私は魔なる子の『中』にいる。
 彼はやはり世界に絶望していた。絶望しかない世界を諦観し、それを滅ぼすために力を欲していた。
 私は喜び勇んで彼に近づいた。世界を、絶望を壊すために私の力を使える。絶望しかない世界など壊れてしまえばいい。そう考えて近づいた。
 だが、彼も所詮ヒトだった。愚かなヒトでしかなかった。
 強い絶望の中にありながらも、家族を欲し、愛情を強く求め、淡い希望を思い描いていた。世界が絶望であることを知りながらも、希望を求めずにはいられない哀れなヒトだった。
 世界の崩壊を心の底から望んでなどいなかった。
 だから私は、彼の意識を追いやりその体を奪った。彼の中にある不愉快な希望を感じないように。そして世界を壊すために。

 少女は、アマンダは僕に『名前』っていうものをくれた。
 ヒト達がその『名前』っていうもので呼び合っているのを聞いて、僕も欲しいって言ったらすぐに考えてくれた。僕の識別記号Rに関連してラーミアと。
 僕はとても嬉しかった。名前をもらえたこともそうだけど、それ以上にアマンダが元気に明るく生きてくれていたことが。希望と共に生きていたことが。
 勿論希望ばかりじゃないけど、それでも明るい未来を信じて生きていてくれるのが嬉しかった。
 ヒトには絶望が降りかかるけど、希望だってちゃんとある。彼女はそのことを知ってくれている。それは、生まれてくると同時に希望を感じた僕のことを認めてくれているみたいで嬉しい。
 だから、僕は彼女にもっと希望を与えてあげたい。弟のゾーマを救ってあげたい。あいつの、Sの支配から……

「ラーミア!」
『ほい、ほ〜い』
 精霊神の叫びに続き、Rの間の抜けた返事が響く。
『準備おっけ〜だよ、ルビス』
 Rは生意気にも私を束縛し、一定空間に閉じ込める。軽く焦りを覚えたその時、精霊神は懐に手を入れあの忌々しい装置を取り出そうとする。
「これで――」
 精霊神のその先の言葉が発せられる前に、私は力の全てを出して渾身の一撃を打ち出す。
『最早、その程度の装置で私を抑えられるものか!』
 バギッ!
 装置に向けた魔力波は、あっさりとそれを砕く。
 やはりな…… 私の魔力はかなり増強されている。世界に満ちた絶望は私に力を与えるのだ。
 この戦い――精霊神とRを敵としたこの戦いはどう贔屓目にみたところで私に勝ち目はない。だが、勝つ必要はない。滅ぼされさえしなければ……
 私が、私という魔力が絶望に反応してその力を増すのなら、世界というものがある限り、絶望が存在し続ける限り、最後に勝つのは私だ。
 私は、この世界を壊すことが運命なのだ。世界は、絶望は壊れてしまうことこそが運命なのだ。世界は滅ぼされるべきものなのだ。

 なぜだろう? Sの魔力が以前と比べて随分強くなっている。少なくとも、研究室でヒト達が確認した時には僕と大差ない程度だったはずなのに、あの装置を壊すなんて……
 いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。まだ大丈夫だ。ルビスが一緒なら……
「ラーミア。勝算は?」
『う〜ん。今僕も聞こうと思ってたところ』
「こちらが二人だからといって有利というわけではないのね、やっぱり……」
 Sの攻撃を防ぎながら、ルビスが苦い顔で呟いた。
『負けることはないと思う。それでも勝てるかって訊かれたら……わからないよ』
「……なら倒さないことにしましょう」
『え?』
 S同様に魔力波で僕が応戦していると、ルビスはそう小さく呟いた。倒さないのはいいとしてもどうするのかな。
 向ってきた魔力波を打ち消し、攻撃に転じようとしたその時――
『ルビス! 危ない!』
 ルビスは僕が止める間もなくSに詰め寄る。
 まずい! ある程度間合いを取ってないと、今のあいつの魔力じゃ一瞬でやられるかも――
『貴様の子の愚行を見ただろう? ほお、それでも欲するか、私を』
 そこでSが言ったことは、僕にはさっぱり理解できなかった。だけど、直ぐに嫌でも気付くことになる。
 魔力のみの存在となっていたSは、ゾーマの時と同じようにルビスの中に入りこんだ。
『な、何をしてるのさ、ルビスっ!』
 そう声をかけるけど、そこにいるのはもう――
『くっくっく…… 逆に私を支配するつもりでもいたのか、なんと哀れなことか』
 発せられた声はルビスのもの。だけど……
『S! お前!』
『何を怒っているR。これは精霊神が望んだこと。私は仕方なしにやっているのだよ』
 ルビスの顔で、ルビスの声でおかしそうに笑うS。
 まずいよ。このままじゃ……
 焦りを覚えたその時、Sの奴が突然苦しみ出した。
『ぐっ! 見苦しい! 下らぬ抵抗はよせ! 支配から逃れられるとしてもそんなものは一時の――』
「――それで充分よ!」
 強い意志が見える瞳。力強い言葉。そこにいるのは――ルビス。
「ラーミア、私は今からSの魔力を拡散させる。だけど彼の意識を消滅させることはできないわ。私の意識も残る。彼と私の意識はこの世界のヒトの中を転生しつづけることになってしまう。彼はヒトの中で考えを変えるかもしれないし、やっぱり力を蓄えて同じことをするかもしれない。貴方は彼を見張って」
 早口で言ったルビス。
 ていうかちょっと待ってよ……
『ル、ルビスはどうなっちゃうのさ?』
「私は彼ほどの力はないもの、きっとそのうち完全に消滅する。だから彼のことは貴方に頼むわ」
『そんな! アマンダも、ゾーマだってそれじゃ悲しいよ! 絶対に悲しい!』
「それほど直ぐに消えてしまうわけじゃないわ。世界だって、きっと長い年月のうちに別れを言うくらいの再会は与えてくれる。あなたは世界の希望を信じているのでしょう?」
 それはそうだよ…… そう、だけど。でも――
『そのようなことさせぬ! させぬ、ぞ…… くそっ――』
「――くっ! ラーミア頼むわよ、もうSを抑えられないから……」
 苦しそうにこちらに笑いかけるルビス。
 そんなこと言われても…… 僕はその選択を信じられないよ…… もっと、もっといい道が欲しいのに……
 だけどルビスは、ゆっくりと口を開いてしっかりと言葉を紡ぐ。目的を達成するための呪文を。
「メガンテ!」
 ………………
 生命力を、魔力を元にして全てを破壊する魔法は、しかし静かに、本当に静かに、眼下に広がる水面すら波立たせずに、ルビスとSの魔力だけを世界に散りばめた。
 彼女達の意識までは追えない。今頃この世界のどこかで、誰かヒトの中に静かに入り込んだはずだ。
 僕は研究室にいながらたくさんの絶望を『見た』。それなのに――それなのに何で…… あの子達の顔を、悲しむ顔を思い描くだけでこんなに辛いんだろう? まだ希望はあるのに、また会える機会は来るとルビスだって信じていたのに、僕は信じられなくなったよ。希望を、この世界を。
 そう感じたその時――
「……少し休むといい。いつか信じられるその時が来るまで――」
 懐かしい、優しい声を聞きながら、僕は『分かれていった』。

 ヒトの中で過ごす長い年月のうち、一度だけ精霊神との邂逅を果たしたことがあった。西方の島国、エジンベアの一地方でのこと。
「もう表に出ることができるほど回復しているのね」
『この者が眠っている時だけだ。よくも面倒なことをしてくれたものだな、精霊神』
 宿主の仕える屋敷の屋上で、何をするでもなく呆けていたところ、その屋敷に住まう貴族の令嬢が話しかけてきた。ここに来た時から気付いてはいたが、向こうは常に精霊神が表に出ている。
『そちらは既にその者を支配してしまっているようだな。ふん、善人面して恐ろしい奴だ』
「あら、人聞きの悪い。違うのよ。この娘は生きることを放棄しているの。通常なら私がいるべきところに引っこんでしまっているのよ」
 精霊神が通常いるべき場所ということは、私がこの者の中にある時にいる場所ということか。心もち窮屈で居心地がいいとも言えないが、そこに進んで留まるヒトがいるとはな、物好きな。
『貴族の令嬢などという者が何に不満をもってそのようなことになっているのか…… ヒトとは相変わらず愚かだな』
「あら、貴族なら希望を持って然るべきってこと? 世界なんて絶望ばかりだって尖がっていたのに、考えが柔軟になってくれたみたいで嬉しいわ」
『か、勘違いするな! ずっとヒトの中にあり続けたのだ。ヒトの考え方も知った。今のはヒトにおける一般的な意見というやつだ』
「そういうことにしておきましょうか」
 そう言って精霊神は笑った。かつて敵対した相手を前にして、なんとのん気な女なのだろう。
「貴方は、貴方が入っている人は新人だから知らないだろうけど、この娘はこの家の実子じゃないのよ。養子」
 未だ笑みを浮かべてはいるものの、瞳に影を落として話し出す精霊神。
 しかし何が言いたいのだ? この娘の生い立ちなど私には関係ない。
「家族は全て殺されたわ。この近辺を牛耳っていた野党連中にね」
 ぴくっ。
 私には今、この反応がどういう意味を為すのかわからない。私が絶望に歓喜しているのか、ヒトが絶望に悲しんでいるのか。
「それからよ。この娘は貴方の好きな絶望に負けてしまった。心を閉ざして出てこなくなってしまったの。それ以来、代わりに私が表にいる。そして十年前、子供のいないここの夫婦に引き取られた」
『……ふん、陳腐な身上だ』
 私がそう言うと、精霊神は再度おかしそうに笑った。
「ふふ、そうね。これ以上に陳腐な話もそうないでしょうね。だけどほら、貴方の好きな絶望よ?」
『…………その程度、何の足しにもならない』
「くすくす、やっぱり変わったわ、貴方。昔はもっと隙がなかった」
 そう言って含み笑いをする精霊神。
 ? 意味が分からない。
「絶望が貴方の魔力の源なのね。そういうことなら世界が平和になってくれることを祈らないと」
『な、しまっ…… だ、だが、それがわかったからといって対策が立てられるわけでもない。どうあがいても世界から絶望は消えん』
「そうね。でも、減らすことはできるわ。貴方がその調子で、希望を信じられるようになる日まで」
『そんな日は来ない』
 精霊神の言葉に即座に反応し、私は否定する。そうだ、そんな日は……来ない。
「……そろそろ戻るわ。この娘の体面もあるしね。使用人と夜中にこんなところにいたと知れたら穏やかじゃない噂が流れてしまう」
 精霊神はそう言って踵を返し屋敷の中に戻ろうとする。
『おい』
「何かしら?」
『貴様が早々に中に引っこむことを祈るぞ』
 私はこの時、どういうつもりでそう言ったのだろう。
「ありがとう」
 少なくとも、彼女が解釈したようなつもりで言ったわけではない……はずだ。
 それから一年、『私』はその屋敷の主に暇を言い渡され他の貴族の元へ移った。理由は覚えていないが、どうせ下らないことだっただろう。
 そしてそれゆえに、その後彼女『達』がどうなったのか、私は知らない。

 僕はずっと夢の中にいるみたいな心地だった。
 多くの絶望ばかりを見た。悲しみで心を満たし、微かな希望を求めるヒトを沢山、本当に沢山見た。
 そんなヒト達の願いを僕はどうにか叶えてあげたいと思った……はずだ。世界の希望を信じたいと願い、希望の存在を確認するために。
 でも僕は、その多くを覚えていない。というより全体的に記憶が曖昧だ。今日この時、嬉しい再会を果たすまでの記憶が……
「久し振りね。ラーミア」
『? あれ、アマンダ? え、あれ、ここは?』
「ラーミアが」
「復活しました」
 アマンダの後ろで突然話し出したのは、まったく同じ顔をした精霊二人組。この双子の精霊は、こっちの世界でアマンダにできた最初の友達だったかな?
「これで」
「この寒い場所」
「から出て行け」
「ます」
 と、変なところで区切って交互に話す二人。そう言えばこういう話し方してたっけ、懐かし〜。
「アマンダ」
「に強引にラーミアの」
「魔力を集める装置」
「の研究をさせら」
「れて早四千年」
「やっと終わっ」
「たわね、レシル」
「そうね、ルシル」
 そう話し、泣き出す二人。あれ? 友達……だったよね?
「何よ、二人とも。まるであたしが悪いことしてるみたいじゃない?」
「どっちかってぇとそうじゃねぇか?」
 口を尖らせて抗議したアマンダに、グレイの髪の派手な服装をした男の子が言った。
 初めて見る顔だなぁ。ていうか、周りを見回すと初めて見る顔ばかりだ。ざっと数えて――六人が知らない顔だった。
「ちゃんと偶に会いに来てたし、差し入れだって持ってきてたわよ」
「十年に」
「一度とかね」
 双子の精霊達は不機嫌そうにアマンダを見て答える。
「い〜じゃない? お互い長生きなんだしさぁ。それにあんたらは引きこもってるくらいが丁度いいってもんよ? その話し方はご近所づきあいに向かないし」
 と、双子に責任転嫁しだすアマンダ。変わってないなぁ〜。
『相変わらずだねぇ』
 そう声をかけると、彼女は大きく笑って返す。
「あんただって。お互い気の遠くなるような時を過ごすもんだから、そうそう変わってなんていられないってことかしらねぇ?」
 そこで僕は戸惑う。理由はわかってる。
『僕は……』
「?」
 僕は変わってしまった。だって、あれからまだ世界を信じられずにいる。絶望に負けそうになっている。希望を信じられないんだ。
 黙ってしまった僕を不思議そうに見ているアマンダ。心配させないように話題を変えよう。
『ところで見たことがない人がいっぱいいるけど?』
「ああ、この子達は――まあ、友達かしらね?」
『友達! アマンダにこんなに友達が!』
「ちょっと! それじゃあたしが友達いない子みたいじゃない!」
『昔はいなかったじゃん。特に人間の友達はさ』
 色々あったせいか、あの頃のアマンダは少し人間を信用していない節があった。比較的普通の反応をしていたから分かりづらかったけど、心を許しているのは魔族か精霊、とにかく人間以外の種族だった。
「ま、まあ、そういう時期もあったわね」
 妙なポーズを決めて、気取った様子で苦々しく呟いたアマンダ。照れているのか、アンニュイを装っているのかわからないけど、こういう少し変なところも懐かしい。
 ぽん。
 そんな彼女の肩を叩き、生暖かい瞳を向けたのは黒髪の男の子。
「お前のあだ名。友達なし子にしてやるよ」
「嫌に決まってんでしょ! ていうか長くて言いづらいっしょ!」
「じゃあ、友達のいない無駄に長く生きてるババァとか」
 これは白い髪の女の子。
「さらに長い上に酷さが増してるっ! 前言撤回! ラーミア、こいつら友達じゃないわ、他人! 真っ赤な他人!」
『あははははは』
 耐え切れずに笑ったら、アマンダに不機嫌そうな瞳を向けられた。
「元はといえば余計なこと言ったあんたのせいだってのに、大爆笑とはいい根性してんじゃない」
『ごめんごめん。でもなんか嬉しくって。アマンダ、ありがとう』
 少し、ほんの少しだけど、希望を信じることができるような気がした。辛い日々を過してきただろう彼女が明るく強く生きているんだもの。希望はきっと絶望になんか負けない。そう信じなきゃ……
「? よくわかんないけど、少し込み入った話もあるし移動したいのよ。この人数だし、もう少し大きくなって貰ってもいい?」
 今僕はヒト一人と同じぐらいの大きさ。でも、その気になればお城くらいに大きくなることもできる。さて、十人ほど乗せるということはどのくらいかな?
「私達」
「も一緒に行って」
「構わない?」
「ええ。こんなところにいちゃ寒いでしょ?」
「誰のせい」
「でずっとここに」
「いたと……」
 まったく同じタイミングで顔を顰めてアマンダに不満の瞳を向けるレシルとルシル。
「気にしない、気にしない。ほらラーミア、行くわよ」
『はいはい』
 飛び立つのなら建物内にいるわけにもいかず、アマンダに連れられて外へと向う。後ろからはアマンダの友達がついてくる。その内の一人、無邪気な表情の黒髪の女の子が声をかけてきた。
「ね〜、鳥さんは大きくなったり小さくなったりできるの?」
『うん。君たちを乗せるくらいの大きさなら余裕だよ』
「それよりさ、どのくらい小さくなれるの? 手の平サイズとかいける〜?」
『手の平サイズかぁ。それよりちょっと大きいくらいが限界かな? ……えいっ!』
 ぽんっ。
 魔力で造っている体を変形させると、やっぱり手の平サイズよりは少し大きいくらいにしかなれなかった。だけど――
「うっわぁ〜。かわいい〜。全然オッケ〜だよ。ダッコしていい? ダッコしていい?」
『う、うん。いいけど』
「ありがと〜。ひゃあ〜、触りごこちい〜」
 そう言って僕を撫で回す女の子。ちょっと辛いかなぁ〜、はは。
「あ、次私も――」
「皆さ〜ん、ここにかわいこぶってるカマトト女がいますよ〜」
 すちゃ。
 もう一人いる黒髪の女の子、頭にサークレットをつけた子は、さっきアマンダに『友達なし子』というあだ名をつけた男の子の言葉を受け、無言で腰のナイフを抜いた。
 その男の子もまた大剣を抜いて構え、一触即発な空気が漂った。けど――
「こら、こんな建物内でやめろって。ケイティ、ジェイ」
 と、白い髪の男の子が注意すると、しぶしぶながら二人はそれぞれの武器を納める。
 仲悪いなぁ。ていうか全体的に変なヒトが多いなぁ。
「な、なあ、あたいにも……」
 と、そこで今度は赤毛の男の――あ、女の子か。ちょっと性別の分かりづらい格好をしている女の子が、僕をだっこしている子に声をかけてきた。
「どうした? アディナ」
 訊いたのは灰色の髪をした男の子。
「うわっ! いや、なんでもねぇよ、ははははは! ただ、この鳥は大きくなった状態なら食いでがありそうだなぁと思ってよ!」
 う、食べられるのはちょっと…… まあ、僕は存在自体が魔力だから食べるのは無理だけどね。
『ちょっとそれは遠慮して欲しいかなぁ』
「そ、そうか。そりゃあ残念だ」
 そう答えてぎこちなく笑う赤毛の子。
 ? 何か動揺してるみたいだなぁ。ていうか、あれだね。
『う〜ん、変なヒトばっかりだねぇ。類は友を呼ぶってやつかな?』
『誰がだ!』
 ほとんど全員がはもった。

 ある一箇所に瞬間的に魔力が集中した。漸くか……
「ラーミアが復活したか……」
『そのようだな』
「これで賭けは僕の勝ちだな。後はラーミアの魔力も取り込み最後の仕上げだ」
 そう言って笑う魔なる子。
 確かに未だ私の魔力はこの者の魔力を上回れずにいる。このままだと魔なる子の思うままに魔力を使われ、終わりだ。だが――
『最後まで気を抜かぬことだ。もはや私とお前の魔力は均衡状態にある。何かあれば直ぐにお前の体を乗っ取ることができる』
 例えば、魔力の使いすぎ、体力の低下、強い動揺による精神の不安定。その内のひとつでも引き起こってしまえば、私の思うままに――
「わかっているさ。逆に言えば、気をつけてさえいれば、僕の思うままにことは進むってことだ。賭けには勝たせてもらう」
『そうか。せいぜい気をつけることだな』
 内心ほくそ笑みながら適当に返す。
 今までいくつかの策を講じてはきたが、ここにきて一番効果的な材料を手に入れた。魔なる子に強い動揺を与える事実を。
 残念だったな、ゾーマよ。賭けは、私が勝つ。
 ………………
 そう考えながらも、なぜなのだろう。心の底で思ってしまう。私は――