注意!
この先にある文章は東方妖々夢を基礎においた小説ではありますが、
捏造分が非常に多くなっております。
霊夢達と幽々子様が戦わない始末です。
更に言えば、幽々子様のスペルカードが全く出てきません
(Extraではでる予定です)
そして、八雲家がフライングして出てきています。
それでもいいという寛大な方だけ先へお進み下さい。
そんなことは認めないという方は、申し訳御座いませんが
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東方妖々夢 FINAL STAGE : 彼の世に嬢の亡骸
一陣の風が吹く。それに伴い、立ち並ぶ木々が花弁を放つ。
春風が桜花とその香りを躍らせる。
そんな中、長い長い階段を踏みしめて進む少女達がいる。彼女達は黙々と階段を一段また一段と踏み、上を目指す。そして――
「西行寺……か。ようこそ冥界へ、とかじゃないのね」
少女の一人――霊夢が呟いた。その視線の先には豪奢な門に刻まれた文字がある。彼女が呟いたとおり、西行寺と書かれている。
「ここ白玉楼の、そして冥界の主たる幽々子様の姓です」
応えたのは、白玉楼の庭師兼剣術指南役を務める妖夢である。彼女は霊夢に向けていた瞳を逸らし、門の脇へ向う。そこには木造りの勝手口があった。
妖夢はその扉を開け、他三名を手招く。
「こちらからお願いいたします。わたしが出てくる時にこちらを使用したため、そちらの大門は閂がかけられたままなのです」
「まあ、いちいちこんなでかい門を開けてたら面倒でしょうがないわな」
声をたてて笑いながら言ったのは魔理沙である。彼女は軽快な足どりで勝手口を潜る。
そして、彼女に霊夢が続き、最後に咲夜が扉を潜った。
それを見て取った妖夢は扉を閉め、閂をしっかりとかける。
「では参りましょう」
再び先導し始め、妖夢が声をかけた。
霊夢、魔理沙、咲夜は大人しく彼女に従い進む。
地面に敷かれた飛び石伝いに歩を進めると、スッキリと刈り揃えられた緑が目を惹く。目障りでない程度に配置されたそれらは、訪問者達を感嘆させた。
そうしてしばらく進むと、清流が耳障りのいい物音を立てていた。そこにかけられた石橋を渡る際、霊夢が視線を落とすと、緩やかな流れの中では鮮やかな色彩を携えた鯉が悠々と泳いでいた。無粋ながら、霊夢はその姿を目にして、神社の年間賽銭総額の何倍だろう、と考えたとか。
「こういうところだと松が多そうなイメージがあるが…… 桜が随分沢山あるな」
石橋を渡りきって住居らしきものの屋根が見え始めた頃、魔理沙が言った。
妖夢は前を向いたままで応える。
「ええ。桜は冥界になくてはならないものらしいですから」
「そうなのか?」
「桜が美しいのは桜の下に死体が埋まっているからだ、という話があるでしょう?」
訊き返されると、魔理沙はこくりと頷く。
妖夢はそれを確認するでもなく、先を続ける。
「あれはある意味では本当なのだそうです。死体と桜の美しさの因果関係は虚構です。しかし、桜には死体を――忌むべきものを封じる力があるのだとか。その力が、霊を冥界にとどめる楔となっているのです」
「誰かの受け売り、といったところかしら?」
咲夜が訊くと、妖夢ははにかんで頷く。
「ええ。八雲様という幽々子様の古くからの御友人です」
「冥界の主の古い友人となると……古さが半端なさそうね」
「確かに」
霊夢、魔理沙が顔を見合わせて笑う。
そんな中、咲夜が立ち止まり、ある一点を見つめ立ち尽くした。
「咲夜?」
声をかけられると彼女は、視線を他三名に移す。そして、右手を持ち上げた。その指が示すのは――
「あれが西行妖?」
妖夢に視線を投げ、咲夜は訊いた。
彼女の示す先には、天を突き抜けん程の大きさを誇る巨大桜が在った。雄雄しく聳え立つそれは、桜花をつけてはいないまでも、どの桜の木々よりも優美で壮大な風体をしていた。
「ええ。あれこそが、幽々子様が開花を望まれている巨大桜です」
応えた妖夢に言葉を返すこともできず、三名は呆けて巨大な樹木を見上げていた。
訪問者達が雄大なる樹木をその瞳に映してからしばらく経った。彼女達はそうしてようやく屋敷の縁側に至る。
長く伸びる縁側の廊下の一辺には、桃色の毛髪を有した女性がしとやかに腰掛けていた。
その女性の目前まできびきびとした動作で寄り、妖夢は跪く。そして低頭し、口を開いた。
「魂魄妖夢、ただいま戻りまして御座います。幽々子様」
「あら妖夢。おかえりなさい。そちらの方々は?」
女性――幽々子は妖夢に笑顔を向けてから、霊夢達に視線を向ける。
「先ほど顕界よりいらした方々です。我らに春度を提供下さるとのことで御座います」
「まあ」
妖夢の言葉を耳にすると、幽々子は感嘆の言葉を漏らし笑む。そして、徐に腰を上げた。
「それは御親切に。顕界からわざわざいらしたのだから、てっきり春度を取り戻すためかと……」
「そのつもりだったんだけどな。その半霊と相談した結果、用が済んで直ぐ返すならってことで、提供することにしたんだ」
魔理沙が応えると、霊夢が割って入り、人差し指を立てる。
「おっと。この豪華な御屋敷で豪華な料理と高価な御酒つきの花見ができる権利も渡してもらうけどね」
若干権利の度合いが上がっていることに、他三名が苦笑する――が、幽々子は気にせずにあっさりと了承する。
「あら、そのようなことでいいのなら、勿論お受けするわ。どうせ西行妖が花を咲かせたら、楽団や紫達を呼んで宴会するつもりだったことだし」
『……楽団』
幽々子の言葉を受け、顕界からの訪問者達は顔を合わせた。彼女達の頭には、冥界に侵入する前に吹き飛ばした騒霊達が浮かんでいた。
しかし、幽々子は彼女達のそのような様子に気付かない。嬉しそうに瞳を細め、西行妖を仰ぎ見る。
妖夢もまた微笑み、主の横顔を見つめた。そうしてから、再び低頭する。
「それでは幽々子様。わたしは引き続き春度を撒くことと致します」
「ええ、そうね。お願い」
幽々子が首肯すると、妖夢は一礼して庭を駆け出す。その手にはいつの間にか桃色の花弁が数多握られていた。
「あ、おい。わたし達のも……って、ありゃ。いつの間にやら消えてるぜ。あいつが持っていったのか?」
「先ほど駆け出す前に奪っていったわよ。早業だったとはいえ、気付かなかったの?」
「寧ろ気付いた貴女に驚くわよ」
顕界の住人達が口々に言った。
冥界の姫はその様子を瞳に入れ、声を立てて笑う。
「? 何よ」
「いえ。楽しそうだなと思っただけ。白玉楼は今、私と妖夢の二人のみ。偶に友人が御供を連れて遊びに来て、その際に楽団を呼んで宴になるけれど、基本的には二人きり。だから、こうして賑やかなのが少し嬉しいわ」
そう応えると、幽々子は少し寂しそうに俯いた。しかしそれも一瞬のこと。直ぐに笑みを浮かべて三名に対する。
霊夢、咲夜はそのような幽々子を訝しげに見返すが、魔理沙は気にした風もなく問いを送る。
「けど、鬱陶しいほどに幽霊がいるぜ?」
「彼等は数刻も留まりはしないわ。肉体を離れた魂はまず顕界で四十九日漂う。そうしてからここ冥界を訪れ、直ぐさま輪廻転生の準備に入る。勿論、霊によっては俗世の罪を償うために苦行に入る者もいるわ。けれど、それを行うのもまたここではない。この世に常にいるのは私と妖夢。そして――」
突然口を閉じ、幽々子は瞳を伏せた。そして瞼を下ろし、呟く。
「少し前までは妖忌がいた」
「妖忌? 名前の雰囲気が似ているけれど、妖夢の親類か何か?」
霊夢が尋ねると、冥界の姫はゆっくりと首を横に振る。
「正確には親類ではないわ。祖父代わりではあったけれど…… 妖忌は妖夢の前任の庭師兼剣術指南役。妖夢に剣術を教え込んだのも彼だったわ」
「ふぅん」
呟き、霊夢は西行妖に瞳を向ける。
幽々子の語る前任の庭師――魂魄妖忌に興味がなかったというのも勿論だが、それ以上に、深く突っ込んではいけない雰囲気を感じ取ったからだった。霊夢は話をかえる。
「ところで、西行妖だっけ? なぜあれを咲かせたいの?」
「咲いたら綺麗そうだからとかか?」
「確かに美麗なことでしょうね」
霊夢同様に、先の話に居心地の悪さを感じていた魔理沙、咲夜は、やはり西行妖を瞳に入れ、言った。
彼女達を瞳に映し、やはり幽々子も天を貫く妖怪桜を仰ぐ。
「そうね。きっと、怖いくらいに綺麗なことでしょう」
瞳を細めるとそう呟いた。
続けて、表情を険しくして語る。
「けれどそれだけではないの。かの桜は楔。封印の鎖。何かを封じるために存在している。私は――その封を解かなければいけない気がするの」
「って、ちょっと待って! その話は聞いてない!」
霊夢がまなじりを吊り上げて叫んだ。
しかし、幽々子は構わず柔和な笑みを浮かべる。
「あら、妖夢ったらうっかりさんね」
「そういう問題じゃないでしょう。そんな封じられているようなのを解き放ったら――」
「まあまあ」
声を荒げる霊夢を魔理沙がなだめた。
そんな彼女をきっと睨みつけ、霊夢が再び叫ぼうとする。しかしその前に、魔理沙が口を開く。
「あの巨大桜がここにある以上、何かが復活しても被害を受けるのは冥界。そこの尻拭いはこちらのお姫さんと庭師がするさ。わたしらはそれを肴にして宴でも開いてりゃいい」
「そうね。私達が手を貸すいわれはないのだし」
咲夜もまた魔理沙の意見に賛同する。そうしながら、顎に指を当てて考え込み、お嬢様と妹様もお呼びしておかないと、と呟いた。
霊夢はそのような二名を見やり、呆れたように息をつく。
幽々子は巫女のその様子を目にするとおかしそうに笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。
「勿論、私達はそれで構わないわ。顕界の皆様には春度をご提供頂いたわけだし、それ以上のご迷惑はおかけ致しません。万が一封じられているのが恐ろしい化け物であったとしても、責任は私達で取るわ」
そのように言い切られてしまえば、霊夢としても反対する気力を失った。肩を竦め、好きにしなさい、と笑う。
と、そこへ――
「幽々子様」
妖夢が駆けて来た。
「あら妖夢。もう春度を撒き終えたの?」
「申し訳御座いません。それはまだ…… しかし、八雲様方がいらしたため御連れ致しました」
「紫が? ……あら本当。藍さんと橙ちゃんも」
呟いた幽々子の視線の先には、日傘を差した金髪の女性と、九つの尾を有した大柄な女性、そして、二俣に分かれた尾をぴんとたてた少女が立っていた。
霊夢は彼女達を瞳に入れ、思わず、あ、と呟く。
「どうした?」
「いや。あの猫、ここに来る途中ではっ倒した奴だわ」
「どおりで貴女を威嚇するように睨み付けているわけね」
顕界の住人達が話している一方で、日傘を差した女性が幽々子に歩み寄る。
幽々子は首を傾げて彼女を見返しながらも、笑顔で声をかける。
「ちょうどよかったわ。これから宴を開こうとしていたのだけれど、貴女も出てくれるでしょう?」
「幽々子」
投げかけられた笑顔に、女性は表情なく応える。
そして――
「悪いわね」
彼女がそう呟くと、幽々子の体は闇に飲まれた。
女性が――八雲紫が空間に生み出した切れ目に吸い込まれ、その姿を消したのだ。
「ゆ、幽々子様! 八雲様! 何をなさるのです!?」
「藍。橙。幽々子は頼むわ」
妖夢の叫びに紫は応えず、連れの二名に瞳を向けた。
「はっ」
「はいっ! 紫様!」
声をかけられた九尾の女性と二尾の少女は、応えてから自ら切れ目に飛び込む。
彼女達がその中へ消えると、空間は元に戻った。
「次は……春を顕界に戻すとしましょうか」
ざあ……
白玉楼の庭に満ちる春度を、紫は腕の一振りで一所に集めた。そして、再び空間に切れ目を入れる。
「お待ち下さい!」
切れ目に飛び込もうとした紫を、妖夢が止めた。その手には、紫の表情を映し出すほどに磨き鍛えられた刀が握られていた。
「無意味なことは止めなさい」
「八雲様のお言葉でも、得心致しかねます! わたしの主はここ白玉楼の主、西行寺幽々子様に御座います! あの方の御言葉こそ、優先されるべき事項!」
「……ふぅ。頑固なところまで似てしまって、まったく」
少女と女性が一触即発の空気を振りまく中、人間達はあっけに取られて状況を見つめている。
「ついていけないんですけど……」
「まったくだぜ」
「取り敢えず、花見どころではなくなっているわね」
咲夜が呟いた。
それに伴い、これまで春の満ちていた庭が色を失う。木々からは花弁が一掃された。
すると、巫女と魔女が眉根を寄せる。そして――
「……ここまできてやっぱなしってのは嫌ね」
「……わたしは封印されてる奴とやらにも興味があるぜ」
それぞれ呟いた。
それゆえに、彼女達は御札を構え、手に魔力を溜める。
一方、咲夜は呆れた瞳を彼女達に向け、
「勝手になさい」
そう呟いて縁側に座り込んだ。
彼女が頬杖をついてため息をついた、その時――
「六道剣、一念無量劫!」
妖夢が高速でクナイを打ち出した。それらは全て紫へと向かう。先ほど霊夢達と対峙していた時よりも鋭い攻勢が続いた。が――
さっ。
紫が空間を撫でると、それに沿って再び切れ目が現れる。切れ目は段々と大きくなり、放たれたクナイを全て飲み込んだ。
「くっ!」
頬に一筋の汗を携え、妖夢は呻いた。
彼女は直ぐに攻撃の手を再開しようと、刀を握る手に力を込める。しかし、咲夜と戦った際の傷が疼くようで顔を顰めた。
「怪我人は無理しなさんな」
「花見のためだし、私達に任せときなさい」
妖夢の前に出て、魔理沙、霊夢が言った。
妖夢は彼女達を瞳に映し、頭を下げる。
「かたじけない」
そう口にしながらも完全に戦線を離脱する気はないようで、後退るが再びクナイを構える。援護に徹するつもりらしい。
彼女達のその様子を眺め、紫は楽しそうに笑みを浮かべた。
「あら。三対一だなんて怖い。少し本気にならないと駄目かしらね」
呟いた紫は一歩前に出る。
それに伴い、霊夢達は一歩下がる。笑みを浮かべ、余裕すら窺える紫から強い圧力を感じ、足が自然と動いてしまったようだ。
しばらくはそのように対峙していたが、紫がいつまでも動きを見せないことで霊夢と魔理沙が覚悟を決める。
「魔符、ミルキーウェイ!」
左手を突き出し、魔女が光り輝く星の河を生み出した。続けて、
「霊符、夢想封印集!」
巫女が祈りを捧げることで、封印の光が一点に集った。
強い力が集うことで、風が暴れる。地面に落ちていた花弁が渦巻き、辺りに散った。
しかし、その中で紫は笑みさえ浮かべ、平然と立ち続ける。
「効いてない!?」
霊夢が驚愕し叫んだ。
一方、魔理沙は瞳を閉じて集中している。そして――
「恋符、マスタースパーク!!」
左手を突き出し、新たなる光を生み出した。圧倒的な強さの光が溢れる。
「……ふぅん。これは中々」
「これだけの力でも駄目なのか!?」
未だ笑みを浮かべて光を制している紫を瞳に映し、クナイを放つ手を止めて妖夢が驚愕の声を上げた。そして再び、腰に納めた刀に手を伸ばそうとする。
「……怪我人は無理するなって言ったでしょう?」
「しかし……!」
霊夢の言葉を受け、妖夢は声を荒げる。しかし直ぐに、更なる力が生まれる気配を感じ取って言葉を呑む。
巫女が懐に手を入れる。そこから御札を十数枚取り出し両手で構えた。
「封魔陣!」
まずは、うち数枚を放ち光を生み出す。光は紫へと迫り、強い力を有す陣を形成した。そしてそれが消えぬ内に――
「封魔陣!!」
第二陣が放たれる。力が重なり、光が周辺を支配した。
襲い来る光を目にする紫。彼女は未だ、楽しげに頬を緩ませている。
その紫に向けて光が集中する。陣が重なり、力が強まっていく。
「夢符、二重結界!!」
かっ!
強い光が世界を一色に染めた。
世界が色彩を取り戻した時、そこには何も変わらぬ光景があった。
荘厳な屋敷。風雅な庭。そして、少女達と対峙する女性。その女性は先ほどまでと変わらず佇んでいる。傷を作ることなどなく、また、衣服を汚すこともなく……
「予想よりも手強そうねぇ。力でねじ伏せるよりも見せた方が早いかしら」
笑みを浮かべたまま呟くと、紫は日傘を閉じる。そして、霊夢達を真っ直ぐと見据えた。
霊夢は頬に一筋の汗を伝わせながら見返す。
「見せるって……何をよ」
「嬢の亡骸を堰き止む封の始まりを」
目つきの厳しい霊夢達とは対照的に、紫はおかしそうに声を立てて笑った。
そして、畳んだ日傘で空間を薙ぎ、口を開く。
「……結界、夢と現の呪」
紫の言葉に伴い、空間がひずみむ。屋敷を、庭を、人を闇が飲み込んだ。夢と現が雑じり合う。
時の境が――消える。
To be Continued.....