注意!
この先にある文章は東方妖々夢を基礎においた小説ではありますが、
捏造分が非常に多くなっております。
藍&橙と戦っているのは幽々子様です。
更に言えば、ゲーム本編では出番皆無の人がしゃしゃり出てきます。
それでもいいという寛大な方だけ先へお進み下さい。
そんなことは認めないという方は、申し訳御座いませんが
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東方妖々夢 EXTRA STAGE : 妖怪の式の式
楽園――マヨイガの心地よい気候の中に放り込まれ、冥界の主たる西行寺幽々子は呆けた。清い流れの奏でる音が耳に届き、天より降り注ぐ陽光が瞳を差す。彼女の眼前に広がる光景は、しばし現状を忘れさせた。しかし、直ぐに思い出す。
幽々子は未だ開いている空間の切れ目に瞳を向け――
「西行寺様。冥界へお戻りになられるには、しばしお待ち頂きたく存じます」
切れ目から抜け出てきた藍が慇懃な所作とともに言った。
彼女の側には橙が控えている。
そのような彼女達の背後で、空間の歪みが消えた。
「……藍さん。これはどういうことです?」
「その御質問にお答えしたとして、それがどのような意味を持ちましょう。兎にも角にも、貴女様をここにしばし留めることが、紫様の式であるわたくしと、わたくしの式である橙が為すべきことに御座います」
言い切った藍を瞳に映し、幽々子は薄く笑う。
「紫の意志という訳ね。けれど、貴女達では荷が重いのではありませんか?」
そう声をかけた冥界の姫は、冷たい笑みを浮かべて佇んでいた。隙だらけに見えるその佇まいからは、しかし、鋭い殺気が迸っていた。
橙は無意識の内に毛を逆立たせ、藍の背後に隠れる。
「橙。しっかりなさい。わたくしがついているわ」
「……はい! 藍様!」
主人に声をかけられると、未だ尾を丸めて怯えているけれど、猫又は奮起して幽々子に対する。
幽々子はそれを見止めると軽く笑み、腕を振るう。
「華霊、ゴーストバタフライ……」
蝶が舞う。儚く華麗な蝶がマヨイガを彩る。
全てを黄泉へと誘う蝶が……舞う。
飛び来る蝶々を、妖力を込めた拳で叩き落しながら藍は盗み見る。彼女から見て右、幽々子から見たらば左前方に存在する家屋を。
かの家にはある者がいる。本来であれば既に転生の輪に組み込まれているべき者。
藍の主人である紫は、彼をあの家屋に留め、生と死の境界を操ることでこの世に留めようとしている。それは明らかに幽々子のためであったが、なぜか紫はかの家に幽々子を近づけないようにしていた。彼を擁立してからは、マヨヒガを冥界の姫が訪れたことはない。
しかし、西行寺幽々子は今ここにいる。
それは、紫が望んだ結果だ。彼女自身が幽々子をこの地に誘った。
ともすれば――
「鬼神、飛翔毘沙門天!」
藍の思考を遮り、彼女の式である橙が声高に叫んだ。
橙は身軽に飛び回りながら、辺りに妖力で形成された弾をばら撒いている。しかし――
さっ。
冥界の主が、手にしていた扇を広げて振るうと、それに伴い一陣の風が巻き起こる。そして、その風に巻き込まれた式の弾は静かに消え去った。
それを目にし、橙は寸の間呆けた。そこに――
「亡舞、生者必滅の理 死蝶」
力が押し寄せた。
怪の式の、そのまた式である黒猫に、滅びの翼が舞い寄る。
橙は瞳を硬く閉じ、覚悟を決めた。
しかし――
「式神、十二神将の宴」
藍の呟きと共に、十二の光が生まれる。光は、あるいは橙を護り、あるいは幽々子に向う。そして、光の一つが橙を藍の元へと連れ来る。
「あ、ありがとうございます、藍様」
「気をつけなさい」
「はい!」
主と式が短いやり取りをする間に、十二の将達はその数を著しく減らしていた。幽々子の腕の一振りでひとつ消え、彼女の眼力によってひとつ消え、更には、彼女の吐息でひとつが消えた。
全てに滅びを齎す姫は、容赦なく対する者達を襲う。
「……貴女達も、眠りなさい」
十二の光を消し去った冥界の主は、式と式の式に静かな冷めた瞳を向け、呟いた。
扇を手にした右腕を持ち上げ、構える。
「桜符、完全なる墨染の桜、春眠」
常は平穏なマヨヒガにおいて、常ならざる爆音が轟いた。
膝を折り、明鏡止水の境地にあった者は、ゆっくりと瞳を開く。そして、皺の刻まれた口元を歪める。
「懐かしい――というには、まだ幾許の時も経っておらぬか」
呟き、彼は立ち上がった。
二度と逢うことなどないと覚悟した相手に対するために。
「橙!」
「はい!」
藍の呼びかけに応え、橙は素早い動きで駆け出す。そして、光弾を四方八方に打ち出した。
そして、藍もまた妖力を操り、幽々子に向けて力を解き放つ。
「西行寺様。どうか大人しくなさって下さい。我らがこうして戦うことに、意味などありませぬ」
幽々子は光弾を扇のひと振りで消し去り、藍の呼びかけに応える。
「……意味ならあります。私は西行妖の封を解かなければいけない。それには、貴女達と、紫が邪魔です」
「なぜ、封を除かねばならぬと申すのです。なぜ、それを望むのです」
尋ねられると、幽々子は言葉に詰まる。
「存じないのでしょう。御自身でも。ならば――」
「確かに!」
藍の言葉を遮り、幽々子は声を荒げた。
そんな彼女に、藍は哀しげな瞳を向ける。
一方、幽々子は、藍のそのような様子には気付かず、鋭い瞳を式達に向ける。
「確かに分からない! けれど、あの桜の下に眠るもの、封じられし何かこそが私の望むものなのだと――そう、私は信じているのです!」
「……そこにあるものは希望などではないやもしれませぬ。貴女様の身に襲い来る絶望が封ぜられておるだけやもしれませぬ。紫様は――得体の知れぬそれから、貴女様を護ろうとしておられる」
それが真実とは限らない。事実、冥界の姫にとって本来ならば絶望足り得るそれは、ある意味では希望になり得るのだから……
しかし、幽々子は知らない。封じられたものが何か。封じられし絶望が、今なぜ希望になり得るのか。知らない。
そのはずであるのに――
「私は――西行妖を咲かせてみせる」
強い決意の光が宿った瞳。
その瞳で幽々子は、目の前に立ちはだかる者達を射すくめた。
そして、彼女の持てる力全てを開放する。
「反魂蝶、一分咲」
蝶が舞う。
猛き力を振りまきながら、蝶がマヨヒガの空を舞う。その蝶はみるみる間に増殖し、そして、消えていく。
「これは……!」
藍が表情を険しくし、呟いた。
蝶は彼女も、彼女の式も襲うことはない。蝶はただ、冥界の姫の願いを成就しようと、羽ばたくのみだ。マヨヒガを抜け出て冥界に至り、藍達の主たる紫が集め直した春を再度、白玉楼の庭に巻く。
「……参分咲」
「橙!」
「は、はい!」
藍の鋭い声が飛ぶと橙は、乱れ飛ぶ蝶々の美しさに奪われていた瞳に力を入れ直し、妖力を操る。
そして、藍もまた強い力をその身の内に溜め、開放する。
「鬼符、青鬼赤鬼!」
「幻神、飯綱権現降臨!」
青と赤で彩られた光弾が幽々子に向かい、そのあとを追って、純白の狐へと姿を変えた藍が突進した。
三色の力が押し寄せ、幽々子を襲う。けれども――
「伍分咲」
彼女が更に力を開放したことにより生まれた衝撃波が、青と赤の力を、白き軌跡を退けた。
また、その衝撃波により、橙は吹き飛ばされて樹木の一本に体を打ちつけ、昏倒した。藍もまた、地面に激しく堕ちて全身を強打した。
「くぅ…… 橙…… 橙!」
動かない体に歯噛みしながら、藍は式の名を呼ぶ。しかし、応えが返ることはない。
その間にも――
「八分咲……!」
白玉楼では、桜花が満ち満ちていた。
「……やれやれ。相も変わらず、手のかかりなさる御方だ」
家屋からゆっくりとした歩調で出てきた初老の男性。彼は力の奔流をものともせずに佇み、呟いた。
そんな彼の瞳の先にいるのは――
男性は一度微笑んで、手にした刃を構える。
「桜花剣、閃々散華」
突然の一撃に、幽々子は力を霧散させ、地に倒れた。そうしながら、視線を上げる。
彼女の瞳に映ったのは――
「貴方は……!」
「魂魄殿! 何をしておられるのです!」
「ああ、藍殿。申し訳御座らん。床の間に飾っておられた刀、勝手に使わせて頂いた」
慇懃に低頭した男性に、藍は痛む体を起こしつつ怒鳴る。
「そんなことを言っているのはありませぬ! いま紫様はおられぬ! そのような強大な力を使われて、もし幽明の境を分かつことになればそのまま――」
「それでよいのですよ。儂は輪廻転生の理に則す者。何時までもこの生にしがみついておってはならぬのです」
落ち着き払った態度で藍に応えた男性。彼は徐に体の向きを変え、冥界の姫に瞳を向ける。
幽々子は目を瞠り、佇む。
柔らかな風がマヨヒガを駆け抜け、相対する二名を包んだ。
「そうで御座いましょう。幽々子様」
「……妖忌」
To be Continued.....