一章:人と悪魔と精霊と
〜第四の犠牲者〜

 ロアー大陸の南方に、リストールの町は存在している。美しい大聖堂と港が観光客を魅了する、宗教と漁業が盛んな港町だ。
 その港町では、ここ一週間で、凄惨な事件が続いていた。あるいは漁師が港で、あるいは女学生が路肩で、あるいは貴族が自室で、四肢を切断されて殺害されていた。
 同時に、リストールの各所では悪魔の姿が目撃されている。ここ最近続いている悪魔的所業から、夜の闇を人々が幻視しただけである可能性も高かったが、噂には尾ひれがつき、リストールは悪魔に魅入られた町としての名を轟かせるまでに至っている。
 当然ながら、町を訪れる観光客は激減し、夜中に外を出歩く住人もまた居なくなった。
 しかし、それでも事件は続く。
「……い、いや。たすけ――」
 ぽたり。
 物音に伴って、助けを請うた女性の右腕が床に落ちる。
「……っ! ああぁあっ!」
 ぽたり。ぽたり。
 左腕。左脚。
「っ!」
 声にならない声を上げて、女性が痙攣した。命の灯火は消え去る直前だった。
 夜に佇む闇が、動く。
 ぽたり。
 右脚の付け根から紅が噴き出す。
 ぽと。ぽと。
 血だまりが生まれ、人の子が死んだ。
「……四つ目……」
 月の無い夜に血が流れた。