一章:人と悪魔と精霊と
〜ルーヴァンス=グレイ〜

 ルーヴァンス=グレイは、銀の髪に金の瞳を持って生まれ落ち、学問国家ロディール直営の学問塾で古代悪魔学講師を担当するほどの知識人でもある。彼は勤め人らしく、紺のシャツとグレーのズボンに身を包んで、チェック柄のネクタイを緩く締めている。そういった理知的な風貌と服装、職歴から、女性からアプローチを受けることも多い。しかしながら、彼は非常に残念な性癖を持っていた。
「はぁはぁはぁ…… な、無い乳は、最高ですねぇ……」
 路肩に佇むルーヴァンスが、道をトテトテと歩く女児に熱烈な視線を向けて、荒い息づかいと共に言の葉を吐いた。
 先の発言からも分かるとおり、彼は、ロリータコンプレックス、いわゆるロリコンであった。九歳から十三歳の少女を愛でることに無上の喜びを得る、とんでもない変態なのだ。容姿や才能を、性癖が軽く凌駕していた。
 当然ながら、近づいてくる女性は直ぐさま遠ざかっていく。悪くすれば、町の治安を維持する警邏隊へと通報する。
 この日もいつも通り、警邏隊員が彼の肩をぽんっと叩いた。
「君はいつも楽しそうだね、グレイくん」
「ああ。ご苦労様です、ゴムズさん。休日の日課、女児観察は本当に癒やされますよ。これ無くして僕の人生は語れません!」
 悪びれるでもなく、力いっぱい主張する。とてつもなくたちが悪い。
「そうか、そうか。じゃあ、警邏隊本部までご足労願おうかな、うん」
 当然の結論である。
 しかし、容疑者は不満げに眉根を寄せる。自分の立場が分かっていないこと甚だしい。
「そ、そんな! 女児という名の天使が居るというのに、それを置いてなぜそのような無体をできましょう!」
 方々でため息が漏れる。誰もが肩を落とす。同じ町に脅威が住まう現状を、人々は憂えた。
 ふぅ。
「はいはい。いいから黙って来る。悪いようにはしないからね。ん?」
「のおおおおおおおぉおおぉお! マイエンジェルううぅう!」
 変態の叫び声がリストールの町に木霊した。
 道を歩んでいた十歳の女児が声を耳にして振り返り、可愛らしく小首を傾げる。そのつぶらな瞳には、首根っこを掴まれて連行される大人の姿が映った。
「?」
 女児は、しばらく彼らを目で追っていたが、直ぐに踵を返す。家路を急いだ。
 青空が、連行される変態と、無垢な女児の歩みを見守っていた。