二章:光と闇
〜神と魔の術士〜

 ルーヴァンスは闇で闇を防いでいた。腕のひとふりで迫る力の奔流をひとつ、ふたつと掻き消してみせた。
 魔人が施されている魔化術によって引き出される悪魔の力は五割程度であり、ルーヴァンスの行使している同化術で引き出すことが出来る悪魔の力は十割となる。飛び来る黒の光をあっさりと防ぐことができるのも道理である。
 その一方で、上空では光の軌跡が闇から必死で逃げ回っていた。余裕など一切ありはしない。
(あの様子だと精霊術は魔化術にすら劣るのか…… トリニテイル術にしても、セレネくんでは荷が重いといったところかな)
 僅かな思索にて正確なところを把握したルーヴァンスは、いっそサタニテイル術で本件を解決してしまおうかとも考えた。しかし、直ぐに思い直す。それは危険性を孕む安易な筋道だと、そう判断した。
 悪魔こそが事件の根源にある以上、同様に魔の力をもって制してもどこかで破綻してしまうに違いない。例えば、土壇場で魔界の実力者からの介入を受けたなら、不利になるのは人界の者――つまりルーヴァンスや町民だろう。
 特に今回の事件はエグリグルの悪魔が関わるという。そのような実力のある悪魔が暗躍している以上、悪魔との協力が不可欠なサタニテイル術に頼っていては、逆に悪魔側に取り込まれてしまう可能性は否定できない。
(僕がトリニテイル術を扱えること。そして、それが確かに有効であること。その辺りをまずは確認しておかないといけないか)
 女児に鼻息を荒くして迫っていた時からは想像もつかない真剣な面持ちで、ルーヴァンスが上空を睨んだ。
「まったく、うっとうしい!」
 どんッ!
 片手をかざすだけで、迫りくる再三の黒を弾き飛ばした。
 ぴくり。
 その時、彼は強力な気配を町中から感じ取り、軽く舌打ちをした。
(くそ! アレはまずい。下級悪魔との簡易契約同化術では防げない……! いや、力の源が神か魔かの違いでしかないなら――)
 術士は悪魔の力を解放した。身体から闇色が漏れ出でて、荒波に紛れて霧散した。
 その後、続けて未知の力を享受した。
 ルーヴァンス=グレイは闇を扱うのと同じ要領で光を扱う。銀の髪が煌めく。
 光は力と変じ、闇を弾く。
 どんッ!
(……よし! やはり根本的なところに違いはない)
 結局のところ神も魔も只の力でしかないらしい。なれば、あとは願うだけだ。
 人の子は上空の精霊へと両の手をかざして、その上で言の葉を紡ぐ。
「力よ、護りと成せ!」
 ぱあぁんッッ!!