二章:光と闇
〜黒天を裂く光〜

 黒く輝く光が海上の空を過ぎ去った時、そこには変わらずティアリスとセレネの無事な姿があった。
「し、死ん――でない? それどころか全く痛くありません…… あ、そっか。トリニテイル術の『神楯』でしたっけ? あれのおかげで…… アリスちゃん?」
 安堵のため息をついているセレネの横で、ティアリスが難しい顔をしている。
(今の威力はセレネとの術で防げるレベルじゃねーです。クソ神の力が引き出される感覚がありやがったですが、このバカ丸出しのコメントからして、セレネが何かしたわけじゃねーみてーですし……)
「ティア! 今のうちに!」
 黒の軌跡によって生じた衝撃波が、海上に巨大な波を生み出していた。その波に翻弄されながら、小舟の上のルーヴァンスが叫ぶ。
 ティアリスが我に返って白翼を操る。闇の攻勢が止んだ隙を縫って、海面へと向かった。
 そして、波に呑まれないように飛行しながら、彼女はニヤリと笑った。
(なるほど…… 接触なしでクソ神の力を操りやがるですか。うっぜー性癖はともかく、想像以上に使える野郎みてーですね)
 精霊と人の子の距離が縮まる。
 手を伸ばせば届く距離にまで至った。
「ティア!」
「ヴァン! 手を伸ばしやがるです!」
 パシっ!
 精霊と人が手を取り合った結果、陽の落ちた空をまばゆい光が満たした。
 夜天に光が満ち、リストール港へと突風が吹き込んだ。
 風は、港で身を低くしていたヘリオスの髪を撫で、町中へと向かって行く。
「……どうなったんだ?」
 ヘリオスが呟いて、天を仰ぐ。
 天には光り輝く巨大な剣が煌々と輝き、集った闇を裂いていった。
 その結果、黒き光が晴れ、天を白が染める。
 かっ!
 人々の視線が集まる晴天にて、黒翼を背にした男が、あがきとばかりに黒い光弾を数発放った。
『神刀ッッ!!』
 ぐおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおぉお!
 大音声にともなって振り下ろされた神の刀が黒の弾を切断し、そのまま、闇自身をも斬り裂く。
 町に断末魔が木霊し、ようよう安寧が訪れた。
「……くっ」
 町中に潜んでいた魔が夕の闇に溶け果て、気配を消す。それを契機としたかのように、人界には夜が満ちていく。
 月の明るい夜に静寂が訪れた。