アントニウス邸の食卓に、邸宅の主たるマルクァス=アントニウス卿とその妻ミッシェル、彼らの二子セレネとヘリオス、精霊ティアリス、そして、塾講師のルーヴァンスが集っていた。
夕刻の勝利を踏まえて、精霊さまとその協力者を歓待しようというのが趣旨であった。
晩餐はもう済み、彼らは食後のティータイムを楽しんでいた。
精霊さまと人の子の出逢いについて。
ティアリスがリストールの町にやって来た事情について。
トリニテイル術やサタニテイル術について。
その術士について。
それらの説明をセレネが語り終え、一段落したところで、場に舌打ちの音が響いた。
「ったく…… 手間取ってるうちに犯人の術士が消えちまったじゃねーですか。クソうぜーです」
「……うっ」
ティアリスが肩にかかる黒髪を払いつつ、暴言を吐いた。そうしてから、紅茶を飲み下し、厳しい視線を人の子へとそそいだ。
セレネがしゅんと縮こまる。母親に叱られた幼子のようである。
意気消沈する生徒を苦笑と共に見つめ、師が紅茶を飲み下してから諭すような口調で語りかける。
「まあまあ、ティア。そうセレネくんを睨まないであげてください。サタニテイル術士――犯人の見当ならついていますから」
ルーヴァンスは何気ない口調で驚きの台詞を吐いた。
ざわっ。
その場の視線が彼に集まる。
「る、ルーヴァンスくん。それは本当か?」
代表してマルクァスが尋ねた。
ルーヴァンスが深々と礼をして、慇懃な態度をもって応える。
「ええ。誠でございますよ、卿。少なくとも、彼こそが海上に居たティアやセレネくんを攻撃した術士であるということは間違いがありません」
彼は自信をもって言い切った。
昔取った杵柄というやつで、ルーヴァンスは悪魔やサタニテイル術の気配に敏い。それゆえに、大きな術が行使された先の戦いを契機として、犯人の正体に当たりをつけることができるのだ。
「ヴァン先生。彼というのは……?」
セレネの問いを受けて、ルーヴァンスが肩を竦める。何気ない口調で衝撃を放つ。
「大聖堂の神父のパドル=マイクロトフさんですよ」