五章:人の世の罪
〜粛清の闇〜

 マルクァスやブルタス、ルーヴァンス、セレネの計四名がマルクァスの部屋で腰を下ろしたのち、使用人が各々の前に紅茶を運んだ。部屋の一番奥に在るチェアにはマルクァスが、その手前に二脚在る五人掛けの大きなソファの一方にはルーヴァンスとセレネが、もう一方にはブルタスが腰掛けていた。
 使用人が一礼して場を辞すと、ようようブルタスが口を開いた。
「ご報告します。まず、パドル神父の所在ですが、いまだ知れません。大聖堂の方々に聞き込みましたが、最後に目撃されたのは、夕刻の事件のあとで大聖堂の地下貯蔵庫へ向かうところだったとのことです。念のため、隊員に貯蔵庫を調査させています」
 ブルタスは開口一番、そのように報告した。神父が事件に関わっているか、真実を知るのはまだ先のことになりそうであった。
「パドル神父の他に、誰かが悪魔と通じている可能性を示唆するような目撃談はなかったか?」
 マルクァスが希望を求めて尋ねた。彼にとって、イルハード正教会の神父であるパドルが事件の首謀者であるという推理は、いまだに支持し得ない妄言であった。
 しかし、その希望に対して一抹でも光が差し込むことはない。
「いいえ。今のところはございません。昨日の件も、悪魔自身の目撃情報は多く得られたのですが、アレと共にいた者などの話は一切出てきません」
 一連の事件のさなか、悪魔然としたモノが目立つように立ち回っていれば、当然ながら他への注意はおろそかになるだろう。
 期待を裏切る事実に、イルハード正教会の敬虔な信者たるマルクァスとセレネは、小さく肩を落とした。
 悪魔と通じる者――サタニテイル術士に関係する報告は以上のようであった。ブルタスは数秒言葉を止めてから、再び口を開く。
「卿。それとは別に、グレイくんのアドバイスを元に被害者を調べ直していて、彼らに共通する点があることに気づいたのですが……」
 これまでの被害者は、漁師、女学生、貴族、主婦、そして塾講師である。彼らの職業や経歴からは、おおよそ共通するところなどなさそうだった。
 しかし――
「それは何だ?」
 マルクァスが尋ねると、ブルタスはほんの少しだけ言葉を詰まらせ、それから話し出した。
「皆、人を殺していた可能性があります」
『!』
 ブルタス以外の全員が息を呑んだ。