七章:降臨せし紅闇
〜緊急避難〜

 ブルタス=ゴムズは上空をぼうっと眺めていた。
 ほんの少し前、そこには白翼の者と黒翼の者が居た。遠目ゆえに判然としなかったが、例の精霊さまが魔に憑かれたモノを相手取っているように見えた。直ぐに白は黒を撃退して大地へと降りていった。
 ブルタスは魔が退けられたのだと快哉を叫んだ。しかし、喜びは束の間の幻想だった。
「これは一体……」
 掠れた声で呟いて、天上が紅く染まっていくのを見つめて呆けたが、彼は直ぐに正気を取り戻した。隣で同じく呆けていた隊員に胴間声で指示を出した。
「町民を避難させるぞ! 警邏で散開している隊員一同に伝えろ!」
「えっ、あっ、ど、何処へ……?」
 隊員が判然としない頭で単純な疑問を呈した。
 隊長は寸の間考え込んだ。ルーヴァンス=グレイやティアリスの言葉を思い起こせば、危険の中心は大聖堂のようだった。事実、紅き光は大聖堂を中心に置いていた。なれば、かの地から離れ、尚且つ、人が集うだけの広さがある場所――
「港だ」