「あ。初っ端から躓いたっぽいスね」
岬の言うとおり、持ち帰る旨を伝える言葉は、レジの女の子の耳まで届かなかったようだ。聞き返されている。
「ああ。萎縮してる…… 出鼻をくじかれて人見知りスキルが大発動しちゃったみたい……」
尚子が心配そうに呟いた。
……ふむ。確かにそんな感じだな。とはいえ――
「なんか頷いてますね。お持ち帰りですか、とか訊かれたんスかね」
そんなところだろう。さて、次は注文だな。
「チー・ズ・バー・ガー・四・つ」
ひと言ひと言区切って声をかけているのは尚子。とはいえ、その声は鵬塚に届いているはずがない。俺たちは店の外から観察しているのだから。
店の中で鵬塚は懸命に口を動かしている。そして指を四つ立てる。これで四つ欲しいということは伝わっただろう。しかし、チーズバーガーという商品名は果たして伝わっているのか……
レジの女の子は笑顔で何やら話している。聞き返しているように……見えるな。
「やっぱ伝わってないぽいな」
「そうっスね。てか、あの子可愛いっスね」
「それは……確かに。あとで俺も注文に行くかな」
「いいっスね。じゃあ僕もハンバーガーを……」
「あんたら何言ってんのよ」
レジの中に立つのは黒髪ロングの同い年くらいに見える女の子。瞳はぱっちりと大きく、笑うとえくぼが浮かんで非常に可愛い。営業スマイルなのは分かっていても、あれは惚れるな。
……そして、その子と比べ、俺の隣で呆れた声を上げた女のなんと残念なことよ。幼馴染として悲しくなる。
「……失礼なこと考えてない?」
おっと、顔に出てたか? まずいまずい。
「気のせいだろ。それより――見ろ」
「え? ――あ!」
「まさか!」
レジの子が鵬塚から代金を受け取っている。まさかのまさか。鵬塚が初マックを成功させたのだ!
「やった! やったわ、あの子!」
「ああ! やりやがった!」
ちょっとまじで感動して、尚子と共に声を大きくする。遂には手を取り合って踊りだそうかという、その時――
「あれ? 鵬塚先輩、お釣り受け取ってますけど……」
「別に変じゃないでしょ。泰司と自分の分の百二十円がなくて千円だしたとかじゃないの?」
岬の疑問に尚子が応えた。
しかし、それはおかしい。
「代金を出す時に戸惑わないように、あいつは四百八十円を右手に握り締めてレジに向かっていった。お釣りが発生するはずはない」
「え? じゃあまさか――」
そのように話している間に、鵬塚が誇らしげな表情で帰ってきた。
動物に対するむつごろうさんのようにべた褒めしてやりたい場面ではあるが、急ぎ確認しなければいけないことがある。
「鵬塚。ちょっと中身見せろ」
コクコク。
やはり誇らしげに、マクドナルドの袋を差し出す鵬塚。
しかし――
『不合格』
チーズが苦手な岬以外が言った。
袋には、百円のハンバーガーが四つ入っていた。