陽光がさんさんと照りつける昼過ぎ。爽やかな空気に満ちた緑地公園の一角はざわめいていた。
それもそうだろう。殺人があったというだけでも日常からかけ離れているというのに、その犯人が幽霊という奇抜さだ。更にはその幽霊が、つい先日まで首都グラドー中を震撼させていた殺人鬼の成れの果てなのだ。野次馬のわかない理由を探すのが難しいくらいではないか。
そしてその上――
「いいか、カリム」
グラドーで一番の有名人である男――ジュネス・ガリオンまでもがこの場にいるのだ。いったいどこの誰が無関心でいられるものなのか、是非とも伺いたいね。
ジュネスは麻布を捲り、その下に横たわっている少女の死体を睨み付けながら、言葉を続けた。昨日の夜遅くに命を落としたという、無職の少女だ。幽霊となったデルタの犯行による、二人目の犠牲者だ。
「幽霊なんぞこの世にいやしねぇ。存在するってことは実体があるってことだ。なら、実体のない幽霊って奴は存在していないのさ」
……私の友人が、何やら強引な理論を展開させているが、まあ否定せずにおこう。彼をこの事件に駆り出すためには、無理な理論によって導き出される結論が必要だ。
即ち――
「ならばジュネス。こうして実害が出ている以上、『幽霊』には少女に触れるための実体があった。『幽霊』は幽霊ではないということだな?」
私の言葉に、ジュネスは無言で頷く。
思わず笑いだしそうになるのを堪えながら、私は麻布の下に瞳を向ける。可能ならば見たくはないのだが、犯人の手口を確認しておきたい。
……ジュネスには悪いが、やはり犯人は幽霊だろう。
被害者は少女。首を斬られ、更には瞳をくり貫かれている。着衣の乱れはないが、上着のブラウスに『Uzpv』と殴り書きされてある。古代語で『偽者』という意味だ。
例の犯人――デルタの所業そのままだ……
「ジュネス。模倣犯の線は薄いのではないか? このようなイカれた犯行では」
思わず声をかけてから後悔した。彼のやる気を削ぎかねないではないか、と。慌ててフォローをしようと口を開き――
「ああ。模倣犯じゃねえ」
彼の言葉に驚き、開いた口が塞がらなくなってしまった。
「模倣犯ではない? ま、待ってくれ。ジュネス。ならば何だと言うのだ?」
尋ねると、彼はしばらく公園に佇む木々を見つめた。冬が近づいているだけあって、葉は多くが落ち、向こう側をうかがい知ることができた。
とはいっても、ジュネスが何かを具体的に見ていたわけではなさそうだ。思索に伴うただの動作だろう。
彼はしばらくすると、こちらに苦笑を向けた。そして、
「そうだな…… 何かと訊かれるとすげぇ困るんだが、あえて言うなら――」
私はのちに思ったよ。幽霊と言われた方がまだ驚かずに済んだだろう、と。
「冬の夜の夢……とでも呼べばいいか」
そんないいもんじゃねぇけどよ、と口にしながら、死体を覆う麻布を眺めているジュネスを尻目に、私は腰を抜かしそうになっていた。
ま、まさかそんな…… あのジュネスがあんなことを言うなんて……
このあと考えたことは決して口には出せない。口に出した瞬間この国には――いや、この世界にいられなくなる。
どんなことを考えたのかだって? まあ、ここでひっそりと記す分には問題ないか。ジュネスは娯楽書籍など手に取らぬしな。
つまり、私は次のように考えていたのだよ。
似合わない……