しゅっ!
風を切る音だけが聞こえた。そして――
キィンっ!
「アホかおめぇ! 少しは抵抗しやがれっ!」
「君を信頼していたからこそ動かなかったのさ」
嘘である。今も恐怖で足が動かない有り様だ。
ジュネスはそれを察したのか、デルタのシミターを受け止めていた剣を力いっぱい振り回す。すると力負けしたのだろう。殺人鬼は後退し、私の眼前から去った。
しかし安心は出来ない。デルタの瞳は相変わらず私に向けられている。そこに浮かんでいるのは――怒り?
なぜ私が初対面の殺人鬼にそのような感情をぶつけられねばならぬのか、皆目検討もつかない。
「ふん。さっさと終わらすぞ」
ジュネスが呟いた。彼はデルタの感情など気に止める気もないようだ。
がっ!
ジュネスの剣がデルタのシミターをはじき飛ばした。一瞬の出来事だった。私はもとより、デルタも何が起こったのか認知できなかったのではないか。
これでデルタはジュネスの剣を防ぐすべはない。あとは――
ジュネスが剣を振るった。
すぅ。
「な!」
剣がデルタの体をすり抜けた……! や、やはり……
「やっぱ無理か」
「やはり幽霊なのか!」
恐怖を覚えて叫ぶと、ジュネスは私に冷めた視線を送った。そして、右手をおもむろに持ち上げる。その手が向けられた先にいるのは、デルタ。
そうか! 魔法か!
「Olxp」
ジュネスが奇妙な言葉を発した。それに伴い、デルタが引き付けを起こしたかのように動かなくなる。
「Uiznv Hvg」
更に言葉が――廃れて久しい古代の言葉が続く。すると、ジュネスの右手に炎が集い始めた。
そして――
「Hsllg!」
轟ッ!!
業火が駆け抜けた。