邪教 svivhb 06

 ぴかああぁあッ!
 突然差した光が闇を一掃した。
 まばゆさに私は目を背け、何が起きたのかしばらく分からなかった。先の光はルーエン殿の攻撃か、はたまた悪魔の攻撃か。悪魔が光を武器にするとは思えぬが、門外漢の私に判ぜられるはずもない。
 恐る恐る一人と一匹が戦闘を繰り広げていた空間へ瞳を向ける――と、そこには呆然と立ち尽くしたルーエン殿だけが居た。悪魔はというと、壁際にて苦しそうにうずくまっていた。
「おっと。まだ生きてやがるか。さすがにNrwwov Wvnlm。見たところNrwwovの中でもOldviよりの実力とはいえ、さすがにOldvi Wvnlmよりは頑丈だな」
 何やら古代語混じりで呟いて姿を見せたのは、我が友ジュネス・ガリオンだった。洞穴の奥深くから顔を出し、すらりと腰のロングソードを抜く。
「Zwwfxg Slormvhh」
 ジュネスが何やら呟くと、彼の剣に淡い光が宿った。そして、その剣を悪魔へ向ける。
 悪魔は即座に地を蹴り、洞穴の奥へと駆けだした。
「ちっ。逃げんじゃねぇよ、面倒くせぇ!」
 ぶんッッ!!
 叫びながらジュネスは、ロングソードを上から下へ勢いよく振った。それに伴い、剣に宿っていた光が空間を駆け抜けて、悪魔を追う。悪魔と光の距離は直ぐさま縮まり――
 ブルアアアアアアアアアアァアアああぁああァア!!
 凄まじい断末魔の叫びが洞穴内を反響した。
「た、助かった……」
「よお。何やってんだ、こんなとこで」
 ロングソードを鞘に納めて、ジュネスは仏頂面でそのように言った。
「何やってるはないだろう、君。私たちなりに必死でリオさんを探していたんだぞ」
「ああ。やっぱ貴族の娘ってのはリオでよかったのか」
「あのなぁ、ジュネス。貴族のご令嬢を呼び捨てというのはどうかと……」
 ん? ちょっと待て。今の口ぶりからすると……
「もしやジュネス。もう――」
「ジュネスさまぁ! 愛しのジュネス・ガリオンさまぁ! どこにいらっしゃいますのー!」
 洞穴の暗がりから女性の声が響いてきた。十代半ばか、ひょっとすれば十代前半とも思える声の幼さである。やはり、ジュネスは既にリオさんを発見して救出していたようだ。しかもすっかり懐かれたらしい。サー・ジュネス・ガリオンが誕生する日も近そうだ。
 ぎろりッ。
 ジュネス卿の姿を思い描いていたら、睨まれた。どうやら顔に出ていたらしい。サーの称号を得たジュネスの姿はどうにも笑いを誘う。似合わなすぎるという意味合いで。
「ジュネスさま! やっと見つけました!」
 勢いよく洞穴の奥から駆けてきて、少女がジュネスに抱きついた。やはり十代前半くらいのようだ。
 その少女を瞳に入れ、ルーエン殿が安堵の笑みを浮かべる。
「リオ!」
「あら、お兄ちゃん。どうしたの、こんなところで」
 声をかけられるとリオさんは、ぱちくりと大きな瞳を瞬かせて小首を傾げた。
 これにはルーエン殿もがっくりと肩を落とす。
 それにしても、ご兄妹だったのか。ルーエン殿があのように辛そうにされていたのも頷ける。さぞや心配だったことだろう。
「どうしたのじゃないだろ。お前を助けに来たんだよ……」
「あら、そうだったの。でも、ジュネスさまの方が早かったよ。さすがわたしの未来の旦那さま!」
 ルーエン殿の心配など何処吹く風、といった風でリオさんは頬を染めて、言った。
 ふむ。ジュネスに婚約者がいるとは初耳だな。
「君らは知り合いだったのか?」
 尋ねると、ジュネスはつまらなそうな顔で首を振った。
「いや。初対面だ。旦那様とやらになる気もねえ」
 にべもない態度に、リオさんはショックを受けたようである。瞳に涙をためている。
 ……何というか、面白い娘である。仏頂面のジュネスを気に入ることしかり、攫われていたというのにこの元気さしかり。
 どおおおおおぉん!
 その時、大きな音が地下空間に響き渡った。

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