1日には昼と夜があり、空にはさみしがりの太陽と、仲良しの月と星がいた頃のお話。彼らの心を記したおとぎ話。太陽と月と星の物語。
「えー。でもそんなのおかしいよー」
寝物語を聞いていた子供は、不満顔で文句を紡いだ。
母は微笑み、尋ねる。
「あら、どうして?」
「だって、おそらにはたいようもつきもほしも、みんないっしょにいるじゃない」
そう言って子供が窓からあおいだ薄暗い空には、控えめな光を放つ太陽と静かな光を携える月、そして、鋭いきらめきで地上を照らす星があった。
「そうね。だからこれは、とても、とっても昔のお話。母さんも、母さんの母さんも生まれていなかった頃の、遠い遠い物語」
「100ねんくらいまえ?」
「ううん。もっともっと昔。1000年か、ひょっとしたら10000年も前のことなのよ」
へーと感心した様子で、子供は黒真珠のようなまあるい瞳を見開いた。
そして、母の腕にばふっと倒れこむ。顔をあげ、優しいその顔を見上げた。
「それで? それからどうなるの?」
「それはまた明日。もう寝ないとね?」
「えー! そんなのずるーい!」
眉根をつりあげ、かわいらしく怒って見せる子。
母は苦笑しつつ、子をベッドに寝かしつけ、毛布をかける。
「じゃあ少しだけ。月さんと星さんは、空を変えることを決意したの。太陽さんのために。それから、彼らの冒険の旅が始まるのよ」
「ぼうけん! それで! それでどうなるの?」
「だーめ。今度こそおしまい。さあ寝なさい。じゃないと、もうお話してあげないわよ?」
そう言われると、子はしぶしぶながら布団に身を沈めた。
「おやすみなさい。ママ」
「おやすみ」
がちゃ。
閉められる扉。
もぞもぞと子は身を動かし、窓に瞳を向ける。
差し込む太陽と月と星の光。
今日は彼らの夢を見られそうだと、そう予感した。