ぱらぱらぱら。
オカリナを吹く青年の隣で、少女はページをゆっくりとめくる。
終わりと始まりの神話。
はるか遥か昔。火は地上を支配し、水は海原を支配していた。
もはや何人も知り得ぬ、遠い過去の記憶。
火は猛々しい怒りを顕わにし、全てを燃やし尽くさんとした。地上は燃え尽き、海原は蒸気を上げて沸き立つ。
対し、水は静かに怒り、荒々しき流れを生み出した。大波が地上を洗い流し、海原は荒れ狂った。
火と水の争い。
そうして、世界は終わりを迎え、始まりを迎えた。
神話は終わり、世界には人が生まれた。
地上を支配する火の民と、海原を支配する水の民。
彼らはやはり、常しえに争い、そして、神話をなぞる。
神話と歴史――そのすべてを争いが縛り続ける。
ぱたん。
書物を閉じ、少女が嘆息する。
「……みんな、バカばかり。火も水も人も」
「世界とはバカの集合さ。なぁに、どうせぼくら空もまた、誰かに観測され、バカにされている」
オカリナから唇を離して明るく笑い、青年が言った。
少女は苦笑し、暗い星空から哀れな地上を見下ろす。その一方で、自身の頭上を意識していた。
そこには青年の言うとおり、更なる観測者がいるのかもしれない。
「ふふ。堂々巡りね」