神の采配

 ある神が、その日の仕事を終えて自室に戻ってきた。
 彼は疲れた様子でソファに座り込み、控えている召使に酒を所望する。
 そうしてから、思い出したように窓辺のプランターへ向かった。
「そういえばこちらのマホウが発達した世界がそろそろ収穫時期であったな。世界の軸は旨いからのぉ。酒の肴にもよい。どれ」
 垂れそうになったよだれをじゅるりと吸い込み、神はプランターを覗き込んだ。
 すると、そこにはやや時期尚早に見える世界があった。
「む? おかしいのぉ。この世界はそろそろ熟す時期かと思っておったが、見誤ったか?」
 首を傾げ、神は考え込んだ。
 考えうる可能性としては、この世界が楽しさや嬉しさ、そういう希望に満ちているせいといったところだろう。
 そういった正の感情は世界を青々とした未熟さで包む。そして、軸が熟す時期が遅れるのだ。
「仕方ないのぉ。あと1000年は待たんといかんかもしれんな、これは」
 呟き、神は他のプランターへ向かった。
「では、こちらの世界にするか。カガクが発達したこの世界はよく絶望が満ちるからな。軸が熟すのも早かろう」
 かたっ。
「お待たせいたしました。ご主人様」
「おぉ、ご苦労。ではついでに、こちらの世界の軸を採ってくれ。調理法は、そうだな。刺身で頼む」
「かしこまりました」
 一礼した召使はプランターに歩み寄り、世界を終らせた。

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