小高い丘の上に教会が在る。絶対神ハーヴェスを奉じている教会だ。
その教会には、神の力を借りて奇跡を起こす神術を得意とする者が数多いる。
しかし、その教会は危機に直面していた。女性が一名、教会に侵入して殺戮を繰り返しているのだ。
神術には猛獣を一発で仕留めるほど強力なものもあるが、女性には効かなかった。神官や司祭たちは、ひとり、またひとりと倒れていく。
そして、最後に年若い神官が独り、残った。
「……あんた、何なんだ? どうしてこんなことをする?」
「神術をお使いになるあなた方が鬱陶しいと、我が主は申されておりました。それゆえに、あなた方を排除しなければいけないのです」
「主……?」
神の僕を殺戮する者の主。それは――
「悪魔か!?」
ふるふる。
女性は無表情に首を振るう。その後、気の毒そうに神官を見つめる。
そして、徐に口を開いた。
「我が主の名は――ハーヴェス。あなた方が奉じる神です」
「……な……んだと……」
神官の瞳が見開かれる。
「あなた方が神術と称する御わざ。当然ハーヴェス様の御力をお借りするものです。ハーヴェス様はこのところ御疲れでして、ほんの少しであっても御力を貸し与えたくなかったのかと存じます」
がく。
神官は項垂れる。そして、ゆっくりと辺りを見回す。
大聖堂にて傷つき倒れている者たち。彼らは、ハーヴェスを信じ、敬い、人生を歩んできた者たちである。勿論、ひとり生き残っている神官自身もその一人だ。
それなのに……
「あああぁあ! うわああぁぁあっ!」
もはや祈る対象すら持たぬ者は、ひたすらに、ただひたすらに、叫んだ。
そして――
ざしゅ。
無機質な音に伴って、頭部が床にごとんと転がる。
「人よ。どうか、せめて安らかに……」