幹也は視線を上げ、肩を自分で軽く揉んだ。随分と集中していたので、少しだけ疲れたようだ。
「どうです? 荒斗殺しのトリックは判りそう?」
雅が訊いた。
彼女は幹也の背後で、プリントが捲られていく様子をずっと見ていた。そのスピードに驚嘆しながら。
もっとも、幹也はまったく気付かず、かつ、気にしていなかったが。
「まあ、大方は判りましたね。犯人も絞れましたが、そちらは今後の進捗具合でどうなるか……」
「へぇ…… ちなみにクローゼットは――」
「関係ないでしょうね。一応ミスリードの一つではあるのでしょうが、はっきり小物の詰まっていたことが書かれていますから」
雅はため息をつくが、直ぐに幹也に輝く瞳を向けた。
「それでどんなトリックです?」
「それは――話していいのですか? ミステリ好きというと、意地でも自分で解こうという人間が多い印象があるのですが」
幹也が訊くと、雅は手を左右に振って笑った。
「そりゃ、読むときは解くつもりで読むけど、でも、一読して解けないならすっぱり諦めますよ。フィーリングで犯人を当てるくらいが、あたしの能力にあってるっていうか」
「ほぉ…… では犯人の予想は?」
「ふっふっふっ…… ずばり、香月です!」
人さし指を立てて、自信満々に言う雅。
幹也は意外そうに息を漏らした。
「鍵崎ではないのですね。怪しすぎる人物ですし、フィーリングで決めるなら彼になりそうなものですが」
「あれは怪しすぎますよ。それこそミスリードのための人物でしょ。それよりも、一見荒斗と接点がない香月や道彦が怪しいです」
「ふむ。では、道彦ではなく香月を選んだ理由は?」
「それこそフィーリングですね。ていうか、道彦は本当にいるのか怪しいですし」
「それは確かに」
相槌を打つと、幹也は再びプリントに瞳を向けようとする。しかし、雅はそれを許さない。
「ちょい待った。読むの再開する前に、トリックは?」
「まあそう焦らずともいいでしょう。西島さんに解答を開示するのは明日ですし、せっかくですから雅さんもそれまでお考えになったらどうです? 僕としましても、まだ確信するまで至っているわけではありませんから、下手なことを言うのは避けたいです」
「……まあそれでもいいですけど。あ、三十分経つまであと五分ですから」
しぶしぶといった様子の雅は、ふと時計を目にし、言った。
幹也は少しばかりの焦りを抱いて、それでも、なんとか集中を始めた。