本日はクリスマス。聖なる夜に心ときめかせるのは、何も子供と恋人たちの特権というわけではない。
「夏茄(かな)。そこにある飾り、取ってくれ」
「……元気だね。叔父さんは」
朝から張り切ってツリーの飾り付けをしている叔父を横目に、長篠(ながしの)夏茄は嘆息した。
「そりゃあクリスマスだからな。街を包むワクワクする音楽と雰囲気。乗らにゃソンソンだ。そう言う夏茄はつまらなそうだな。昨日買ってきておいたクリスマスソングのCDでもかけるか?」
「……おかまいなく」
叔父たる長篠冬流(とうる)の言葉に適当に反応してから、夏茄はソファーに倒れ込んだ。
ばふっ。
冬流は小さく首を傾げる。浮かれないでいられるのが不思議で仕方ない、という表情だ。
彼はしばらく姪を見つめていたが、ようようツリーの飾り付け作業に戻る。
一方夏茄は、叔父を眺めつつボーっと考え事を始めた。
(あの年であのはしゃぎよう。我が叔父ながらすごい人だなぁ。まあだからこそ、児童文学作家なんてメルヘンな仕事が出来てるのかもだけど)
「ジングルベ〜ル♪ ジングルベ〜ル♪ 鈴が〜なる〜♪ きょおは〜楽しいクリスマス♪ ヘイ!」
(うわ。歌い出したし29歳。なんという浮かれっぷり。自分の冷めぐあいが間違っているかのよーに錯覚してしまいそうだわ)
そう考えてから、夏茄はその思考を否定するかのように、頭を左右にふる。
(そんなわけない。恋人がいない寂しい男女は、死んだように今日という日を過ごすのが正しい姿。特に私は、遊ぶ約束をしてた女友達にドタキャンされた、寂しすぎる女だよ……)
その女友達は、クリスマス直前に彼氏を見事ゲットし、女の友情をばっさり切り捨てたのだ。
(仕方ないとは思うけどさ。女同士の寂しいクリスマスよりは、そりゃあね。……でも、私だって一応楽しみだったのに)
そのように考え、思わず泣きそうになる夏茄。
悲しいその気持ちを、耳慣れた声が遮る。
「夏茄」
「え」
ばっ。
突然の声に、夏茄は顔を慌てて上げる。
するとそこには――
「メリークリスマス」
叔父の笑顔と、彼の手に握られた大きめの箱があった。
ぱちくり。
夏茄は瞳を瞬かせ、訝しげに問いかける。
「……なに、これ?」
「いいからあけてみな」
冬流の言葉に従い、夏茄は差し出された箱の包み紙を破る。そして――
「服?」
箱からは、有名ブランドの冬の新作が現れた。
「この間、ファッション誌に載ってたそれ。熱心に見てただろ」
そう口にして、冬流はニヤリと笑う。
「叔父さんサンタからのプレゼントだ」
満面の笑みを浮かべる冬流。サンタとしての自分に酔っている風だ。
プレゼントも、自分がクリスマスを満喫するために買った節があるだろう。
勿論、姪のためという理由が大前提ではあるのだろうが。
また、残念なことに……
(これ、確かに見てたけど、別に欲しかったわけじゃないんだよね……)
という夏茄の脳内。
しかし、冬流は相変わらず満足げに笑んでいる。今にも再び歌い出しかねなかった。
叔父のそのような様子に姪は――
くすくす。
(伯父さん可愛い。ふてくされてる自分がバカみたい)
笑った。楽しそうに。
彼女の笑顔を瞳に入れ、冬流は腰に手を当てて白い歯を見せる。
「お。やっと元気がでたな。プレゼントを貰った途端に機嫌をなおすとは、いやしいお姫様だ」
「うるさいなー」
いまだ可笑しそうにしながら、夏茄は小さく唇をとがらせる。
冬流はそんな姪を一瞥してからツリーに向かう。
「さあ手伝え。秋良(あきら)兄ちゃんと春風(はるか)さんが食いもん買って帰ってくるまでに終わらせるぞ」
「はいはい。仕方ないから付き合ってあげる」
夏茄は苦笑しつつ立ち上がり、冬流の隣に立つ。そして――
「叔父さん」
「あ?」
飾り付け作業を続けたまま、冬流が生返事をした。
夏茄はその横顔を見つめて、微笑む。
「プレゼントありがと。メリークリスマス」