祓ひ給へ清め給ふ
2月の行事編「節分」。北海道や東北では落花生を投げます。

「2月といえば――」
 叔父、長篠冬流(ながしのとうる)の言葉に反応し、長篠夏茄(かな)は顔をあげた。そして、何とはなしに思索する。
(……叔父さんのことだから、行事ごとが楽しみだ、って話かな。で、2月だし当然――)
「鬼退治だな」
「何それ!?」
 想像の範疇を遥かに越えた言葉を耳にし、夏茄は思わず叫ぶ。
 冬流はそんな姪を訝しげに見てから、ああ、と呟いた。そして、言い直す。
「節分だな」
「……そーゆーことね。っていうか、バレンタインかと思った」
「何だ夏茄。誰かにやる予定でもあるのか? 子供(がき)のくせに色気付きやがって」
「あのね。私、もう中2だよ?」
「まだまだ子供だよ。と、んなことより節分だ。3日だから直ぐだぞ」
 冬流は壁際に向かうと、カレンダーの2の文字に人差し指を向けた。本日の日付、2月2日である。
 そして、指を這わせて明日2月3日にシフトする。
「買い物に行かないといかんな。豆と恵方巻きを――」
「そーいえば、豆ならお父さんが買ってたよ。恵方巻きはお母さんが作るって」
 と、姪のお言葉。冬流は、ひゅうと口笛を吹き、ソファーに身を沈める。
「となると、あとは明日を楽しみにするだけ、か。ふふふ」
 節分の何がそんなに楽しいのやら、と苦笑しつつ、夏茄は小さく肩をすくめた。

 翌日。
「兄ちゃんっ! これ、落花生じゃねぇか! 大豆は!?」
 怒り顔の弟に、長篠秋良(あきら)は困り顔を浮かべる。
「いやな、会社の青森出身の同僚が『豆まきは落花生だ』って主張しまくってくるからつい」
「雰囲気でないじゃん! 何か間抜けだぞ、このフォルム!」
「まあ、あれだ。落ちても食えていいじゃないか」
「そーゆー問題じゃねー!!」

 数刻後。
「うははは! 鬼は外ぉ! 福は内ぃ!」
 ひゅっ! ひゅっ!
 ぽりぽり。
 落花生を投げつつ、床に落ちたそれを拾って殻を向いて食べつつ、冬流は楽しそうに笑っていた。
 彼のそのような様子を、ソファに座った夏茄は呆れ顔で見ていた。手には落花生の入った袋が握られており、時折取り出し、殻をむき食べている。
「あんだけ文句言っといて、結局いちばん楽しんでるんだからなー。ていうか、どっちが子供よ」
「あら。可愛いじゃない。私は、冬流ちゃんのそーゆーところ、好きよ」
 夏茄の呟きを受け、彼女の母、長篠春風(はるか)が言った。彼女の手には大きめの皿が収まっており、恵方巻きが4つ、のっていた。 「お! 恵方巻きだ! よし、食おうぜ、兄ちゃん」
「ああ。今年はどっちを向けばいいんだったかな」
「南南東だ。南南東は――あっちだな」
 もぐ。
 さっそく恵方巻きをひっつかみ、口につっこむ冬流。
 秋良、春風も彼に続き、口を大きくあけて頬張った。
「……めんどくさいなぁ、もぉ」
 そう口にしながらも、夏茄も恵方巻きを手に取る。
 もぐ。
 もぐもぐもぐもぐもぐ。
 沈黙と共に、ただただ巨大な恵方巻きを頬張り続ける時が過ぎる。
 その間抜けさがおかしくて、夏茄は必死に恵方巻きを頬張りつつも、思わず笑い出しそうになった。
 そして、必死にもぐもぐと口を動かし続ける叔父の姿を見やる。
 ――可愛いじゃない。私は、冬流ちゃんのそーゆーところ、好きよ
 思い出すのは春風の言葉。
(まあ、分からなくもない、かな)
 そのように考え、彼女は口を動かし続けながら、苦笑した。

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