4月29日がみどりの日改め昭和の日となってから5年。名称が変わろうとも休日が嬉しいことには変わりがない。
長篠(ながしの)家の面々はいつもより少しだけ遅くまで眠り、休日の朝を噛みしめていた。
しかし――
「朝だぞー! 起きろー!」
突然の声に、長篠明秋良(あきら)、長篠春風(はるか)、そして長篠夏茄(かな)はびくっと身を起こした。
「……叔父さん?」
眠い目をこすりつつ、夏茄は自室の扉を眺めた。
はぁ。
彼女は悪い予感を覚え、思わずため息が出た。
とたとた。
父母娘が揃って居間へ顔をだし、代表して秋良が尋ねる。
「ふわあぁあ。どうしたんだ、冬流」
「そうだ、京都行こう!」
……………………………………
爽やかな朝の空気に静寂が満ちた。
その静寂を破ったのは、長女夏茄だった。
「叔父さん、何言ってるの?」
「だから京都行こうぜ! せっかくのGWだぞ」
楽しそうに笑い、冬流は言った。
はあぁあ。
夏茄と秋良は大きくため息をついた。このように唐突に旅行を打診されても、という心持ちだった。
「すまん。私は2日は出勤日だ」
「私、友達と約束してるし。1日と3日と5日にそれぞれ」
秋良、夏茄が言った。
一方で、春風は――
「わたしは行けるわよ。2人旅もいいわね、冬流ちゃん」
機嫌よさそうに問いかけた。
しかし――
「何だよ兄ちゃんも夏茄も春風さんも! 俺との旅行なんてどうだっていいんだな!」
冬流が叫んだ。
他3名は訝しげに首をかしげる。
「……えっと、冬流ちゃん。わたしは大丈夫なんだけ――」
「家出してやるーっっ!!」
ばたばたばたばたっ!
駆けだした冬流。ばたんっ!と玄関から飛び出し、出て行った。
……………………………………
再び静寂が満ちた。
「……ふふふ。ふふふふふ。ふふふふふふふふふふふ」
「お、落ち着け春風。怖いぞ」
ひきつった顔で笑いだした妻に、秋良が声をかける。
その一方で、夏茄は壁に駆けられたカレンダーに歩み寄る。彼女には、叔父の奇行の原因に当たりがついていた。
4月分をめくり、5月分を顕わにする。そして、指を這わせて目的の日をさす。
「……やっぱり。逃げたね、叔父さん」
5月2日。GW中の唯一の平日には、赤ペンで丸がつけられていた。その数字の下には――
短編締切
そのように書かれていた。
「編集さんが空気を読むべきだったのか。叔父さんがもう少し我慢すべきなのか。どっちだろ」
はぁ。
朝早くから、本日何度目になるかわからないため息をつき、夏茄はごちた。