受け継いできた僕ら
敬老の日編。彼らが生きて、僕らが生きて、彼らが生きる

 本日9/17は学校が休みということで、中学2年生の長篠夏茄(ながしのかな)は友人たちと共にショッピングに出かけていた。しかし、ようよう夕刻も近づいて、そろそろ解散しようかと帰路につく。
「じゃーねー」
「また明日ねー、夏茄ちゃん」
 それぞれ手を振って別の道を行く友人、深咲桜莉(みさきおうり)と黒輝雪歌(くろきせつか)に手を振りかえして、夏茄は長篠家を目指す。秋と呼ぶには暑過ぎる気候に辟易しながらも、秋らしく吹く爽やかな風を受けて気持ちよさそうに瞳を閉じる。
 そうして数分歩み、ようやく長篠家が見えてきた。
 自宅の玄関先に何がしかがうずくまっている。夏茄はその人物を瞳に映して身をかたくした。しかし――
(……あれ? 叔父さんだ)
 顔見知った相手であることに気付くと警戒を解き、その代わりに訝る。
「うぅ…… 腰がぁ…… 腰がぁ……」
(? 腰がどうかしたのかな?)
 夏茄の伯父、長篠冬流(とうる)はいまだ20代ながらも、来年には30の大台に入るという微妙なお年頃。体の方にもそれなりにガタがきている。ましてや、彼は児童文学作家というデスクワークが主な仕事である。珍しく運動でもしようものなら大なり小なり痛みが走る。
「腰痛いなら家入れば? 湿布張りなよ」
 屈んでいる叔父の目の前に立ち、夏茄が声をかけた。
 すると、冬流は大げさに痛がる。
「うぅ……! 痛い! すげえ痛い! 俺ももう若くない!! 若くないなぁ!!」
 そして元気いっぱいに若くないアピールを始めた。
 夏茄は首を傾げつつ、冷めた瞳で彼を見る。とにもかくにも鬱陶しい。
「だから、こんなとこで座ってないで――」
「老いたなぁ! 俺もすっかり老人だなぁ!」
 ついには老人アピールを始めた。2、30程度の齢で老人とは、何とも気が早い。そんな基準で老人と成るならば、少子高齢化は加速するばかりである。
(このウザさは何か鬱陶しい意図がある時のパターン……)
 叔父が構って欲しくて色々と鬱陶しいことを企てるのは今に始まったことではない。特に夏茄が中学生になってからは顕著である。彼女が叔父と共に過ごす時間は小学生時期に比べて圧倒的に少なくなった。それゆえか、冬流は必要以上に夏茄に構ってくる。
(えーと、今日は確か…… あぁ、そうか)
 今日という日を改めて思い、夏茄は得心した。老人アピールをして姪御をちらちらと期待に満ちた瞳で見る叔父上は、やはり構って欲しいらしい。
 ……ふぅ。
「そんなことする前に、敬われる努力をして」
 がちゃっ。
「ただいまー」
 にべもなく言い捨てると夏茄は、玄関の扉を開けて三和土に上がる。靴を脱いで家の奥へ向かった。
 玄関には悲しそうに項垂れる叔父が残された。ちなみに、腰が痛いのは真実らしい。項垂れつつ腰をさすっている。大きめの荷物を運んだ結果として痛めてしまったようだ。泣きっ面に蜂とはこのことか。
「っつぅ。……せ、せめて湿布持ってきてくれ」

 本日は平和な世の礎を築いた方々に敬意を払う日である。決して、不注意で腰を痛めたお馬鹿さんを敬う日ではない。
 皆々様方、ご注意をば。

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