滅すべき魔なる存在
2013年節分編。金銭的余裕を得た大きな子供の悪ふざけ。

「よーし。豆撒きやんぞー」
 居間でテレビ番組を眺めていた長篠夏茄(ながしのかな)は、物騒なものを肩にかけてやってきた男――長篠冬流(ながしのとうる)を目にして瞠目した。彼が手にしているのは、銃だった。
「……叔父さん。何ソレ?」
「豆鉄砲」
 回答はひと言だった。しかし、納得できない。
「いや……豆鉄砲ってそういうのじゃないでしょ」
「特注だ」
 再びひと言。非常識だが、納得できないこともない。そして、冬流のより詳細な説明が続く。
「豆を10発まで詰め込めて、10発全てを連射することが可能だ。威力は子供が全力で投げた程度のものだが、地肌に当たると結構痛いぞ」
「……いくらしたの?」
「5万ちょっとだ」
「酔狂な…… っていうか、危ないからそんなの撃たないでよね」
 姪御の常識的な言葉。
 叔父は数秒間だけ考え込んで、いいことを思いついたというように笑む。
「なら桜莉を呼べ」
「こんな会話の流れで呼ぶわけないでしょ! まったく……叔父さんは桜莉に酷すぎるよ」
 憤慨する夏茄を尻目に、冬流が意地悪く笑っている。
 桜莉とは、夏茄の友人である深咲桜莉(みさきおうり)のことである。彼女と冬流は平素から仲が悪い。
「あいつには鬼役がふさわしいぜ」
「29歳にもなって女子中学生を目の敵にするのはどうなの?」
 ごもっともな意見だった。
 しかし、身体は大人、頭脳は子供の長篠冬流は動じない。
「ネバーランドっていいよな」
「悔い改めろ」
 ごもっともな意見だった。

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