もぎゅもぎゅ。
「建国記念の日だなー」
もぎゅもぎゅ。
「そーだねー」
長篠家の居間にて、炬燵に深く身を沈めた2者が呟いた。それぞれ蜜柑の皮をむき、どんどんと口に運んでいる。
もぎゅもぎゅ。
「神武天皇陛下も、何を好きこのんでこんな寒い時期に建国なさったのかねー」
もぎゅもぎゅ。
「そーだねー」
長篠冬流(ながしのとうる)の面倒なフリに、長篠夏茄(ながしのかな)は生返事を返した。まともに取り合う気は一切無い。
もぎゅもぎゅ。
「寒いの大好きだったのかねー。冬将軍だったんかなー」
もぎゅもぎゅ。
「そ、そーだねー」
夏茄が頬にひと筋の汗を垂らして、少しばかり口ごもった。叔父上殿の奇妙な見解に、思わず突っ込みそうになってしまったためだ。
もぎゅもぎゅ。
「寒波まんせー。はらしょー。はましょー」
もぎゅもぎゅ。
「……そーだ、ねー」
日本語圏から逸脱したコメントを耳にして、姪御は顔を顰めて耐える。摩訶不思議な言葉の攻勢に身を硬くして備えた。
もぎゅもぎゅ。
「神武たん萌えー」
もぎゅもぎゅ。
「……………そー、かも……ね……………」
夏茄は、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んだ。耐えきった。忍びきった。
もぎゅもぎゅ。
「……………ちっ」
もぎゅもぎゅ。
(……………ふぅ。休みの日に面倒に巻き込まれたくないよね、うん)
折角の休日、誰も彼も嫌な気分を味わいたくなど無い。姪御の自衛もやむなしだろう。
叔父は悔しそうに、乱暴な所作で蜜柑の皮をむいていた。