友人を代表しまして

 ……自分の根性のなさには嫌気が差す。
 昨日は高校の卒業式だった。
 その日は友達全員の協力のおかげで、好きな子と二人だけで教室に残される形になった。
 その時の会話は次のとおり。
「えっと…… 香坂さんは東京の大学に行くんだっけか?」
「う、うん。有元くんは宮城だった?」
「ああ。俺も第一志望は東京だったんだけど見事に落ちちゃってさぁ、あはははっ」
 その後、軽い無駄話を十分ほど続け、それから別れの挨拶を口にし、二人は別々の帰路についた。
 …………………………
 昨日のあのひと時、カムバック!

 ……自分の思い切りのなさには呆れてしまう。
 昨日は高校の卒業式だった。
 その日私は、運良く好きな人と教室で二人きりになれた。
 私はこの春から東京の大学に通うことになってるんだけど……
「俺も第一志望は東京だったんだけど見事に落ちちゃってさぁ」
 それを聞いた時の話の流れとかから、もしかしたら彼も私のことを、なんて都合のいいことを考えた。もう、そのまま勢いで告白しちゃおうかとも思ったんだけど……
 まあ、結局できなくて、そのあと世間話を二つ、三つしてから家路に着いたのでした……
 はあぁあ。

 あれから一年。俺は東京に来ていた。
 とは言っても、彼女に会いに来たとか、告白しに来たとか、そういう一大決心的な用事ではない。単に、大学の友達と遊びに来ただけだ。
 まあ、彼女の大学が近いこともあって、偶然会えたりしないかなぁ、なんて女々しいことを考えていたりもするわけだけれど……
「有元! 次の電車乗るぞ!」
「わかった!」
 少し大きめの声で宣言した友人に、やはり大きめの声量で応える。
 どうも人の多さのせいかざわめきが凄くて、大きな声で話さないと相手に聞こえない気がするのだ。
 っと、電車がホームに入ってきた。
 噂に聞いていたよりも込んでいないみたいだけど…… それでも俺達が普段乗っている電車と比べると、乗る気が失せるくらいの乗車人数を余裕で突破している。
 まあ、嫌がっていても仕方がないので、降りる人が途切れるのを待って乗ろうとしたら――
 どかっ!
「うわっ!」
「きゃっ!」

 私はいまだ、長々と片想いを続けている。
 たまに会う高校の時の友達にそのことを話すと、真顔で「バカ?」と言われたりする。まあ、私も自分でそう思うんだけど……
 でもそろそろ同窓会とかもあるだろうし、そこで運命の再会、みたいなことがあったりしたらいいなぁ、なぁんて…… そんなこと考えてる辺りがもうダメな感じだよね、はは……
 あほなこと考えてないで、降りる準備しよ。
 さっきの車内放送を聞く限り、次がいつも降りている駅のはずだ。
 今日はコンタクトを入れ忘れたから、車内放送に頼るしかない。
 そこで駅に着いた。
「すみません、降ります」
 前を塞いでいるおじさんにそう一声かけると、最初は気付いてくれなかったけど隣のおばさん――奥さんかな?――に指摘されてどいてくれた。
「ありがとうございます」
 お礼を言ってからドアに向う。
 少し急ぎ足で外に出ると、突然人影が目の前に現れる。
 わっ、避けれな――
「うわっ!」
「きゃっ!」

 たぶん女の人にぶつかった。
 たぶんなどと言ってはっきりと断言できないのは、俺の眼鏡がぶつかった時に地面に落ちてしまったためだ。極度の近眼なので、こうなってしまっては声で判別するしかない。
 ソプラノの声音からして、まあまず女の人で間違いないと思う。ここまで高い声の男など、そうはいないだろう。
「ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ」
 頭を深く下げながら謝罪した女の人に、俺もぺこりと軽く頭を下げて返答する。
「大丈夫でしたか? どこか怪我は?」
「いえ、私は大丈夫です」
「そうですか、よかった」
「おい、電車出るぞ!」
 そこで、焦りを多分に含む友人の声が響いた。
 しかし――
「眼鏡が……」
「俺が拾ったよ! 乗れ乗れ!」
 おっ、ナイス。なら、さっさと乗らなきゃな。
「それじゃこれで失礼します」
「あ、はい。すみませんでした」
「いえいえ」
 軽く言葉を返してから急いで電車に飛び乗る。すると、タイミングを見計らったかのようにドアが閉まった。
 それにしても、さっきの人、何だか声の感じとか話し方とか、香坂さんに似てたかもなぁ。もしかして――

 私が降りた電車は、開けたドアをいつも通り直ぐに閉めて走り去った。
 さっきぶつかったのは声の感じからして男の人。
 嫌な人だったら最悪な気分になること請け合いだったけど、ちょっと話しただけで分かるくらい優しそうな感じの人だったなぁ。
 なんか有元くんに似た雰囲気だったかも……って! 直ぐにこういう風に考えちゃう自分が嫌!
 もぉ、宮城まで会いに行けちゃうような大胆さが欲しいよぉ!
 まあ、もちろん無理だけどさ。
 でも、さっきの人、雰囲気だけじゃなくて声とかも似てたかも。もしかして――

『なぁんてね。ないない』

「っ! びびったぁ。でっけえ独り言だな、お前」
 思わず声に出したら、友人に変な目で見られた。

 つい口に出してしまったら、思い切り周りの視線を集めてしまった。
 顔を伏せて足早に階段に向う。
 せめて突っ込んでくれる知り合いが欲しかったなぁ……

 五年後、この話は当然の如く、彼らの結婚式でネタにされたという。

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